「我が同郷の偉人物語」遠き落日 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
我が同郷の偉人物語
細菌学の世界的権威、野口英世。
千円札の人、と言ったらほとんどの人も分かる筈。
この偉人には子供の時から愛着と慣れ親しみがある。
何故なら我が同郷人だから。
本作が公開された時、福島では大変話題になったのを記憶している。
福島の偉人だから、と母に連れられ観に行った。
その時はまだゴジラやドラえもんやドラゴンボールなど子供向けしか見ていなかった時分。
にも関わらず、とても感動した。ひょっとしたら初めて見た真面目な映画だったかもしれない。
今回機会があり、久々に鑑賞。
見るのはいつ以来だろう。幼少時劇場で見て以来かも…!?
20年以上振りなのに、結構よく覚えていた。最近見た映画はすぐ忘れるのに、子供の時見た映画って忘れないもんだ…。
そもそも野口英世の生涯なんて、福島人なら知らない人は居ない筈。(いや、さすがに居るか…)
猪苗代湖畔の貧しい家で生まれ、赤ん坊の時に囲炉裏に落ちて左手を大火傷。生活能力の無い父に代わり、母シカは女手一つで育て上げる…。
火傷した左手を理由にいじめられ、悩み苦しんだハンデや境遇をバネにし、築き上げた成功。
映画で主軸となるのは、母シカとの母子愛。
自分の不注意で息子に大火傷させてしまった、と悔やんでも悔やみきれない。
息子の学びの為に働き続ける。
左手の手術をきっかけに医学の道を志す。やがて世界の医学界に名を轟かす。
母の喜びはどれほどのものだったろうか。
が、外国で活躍する息子とは離れ離れに。
息子は母を忘れた事は片時もなかった。
老いた母は故郷で望むのはただ一つ。
死ぬ前に一目息子に会う事。
「早く来てくだされ… 早く来てくだされ…」
深い母子の絆が胸を打つ。
母シカに三田佳子、英世に三上博史、共に熱演。
神山征二郎の演出、新藤兼人の脚本も誠実。
磐梯山や猪苗代湖の雄大な景色が郷愁を誘うのは同郷だからか。
美術やメイクはちとチープで、ステレオタイプと言ったらそうかもしれないが、身構える事なく、偉人の伝記として見易い作り。
学問そっちのけで色恋にうつつを抜かしたり、少々図々しかったり、偉人の人間臭さも描かれているが、渡辺淳一の原作では酒に溺れ、女遊びに興じ、借金癖などもっと克明に描かれているとか。(野口英世否定論とか言ったけ)
その部分も忠実に描かれても良かった気がする。
どんな偉人だって、叩けば必ずホコリが出る。
聖人君子なんていやしない。
だからこその“人間”なのだから。
自分は野口英世氏が生まれた村とは全然違う街中の生まれだが、そのゆかりの場所は何度か訪ねた事がある。
今は記念博物館もある観光名所だが、当時は何も無い貧しい村だったのだろう。
しかもその地は冬になると大変な積雪になる事も知っている。
こんな場所から世界に羽ばたいた。
生まれもハンデも関係ないのだ。
勿論、一人の力では到底無理。周囲の支えあってこそ。
中でも最大の源は無償の愛情を注いでくれた存在。
またいつか会える日まで。
あの地で、あの時のように。