劇場公開日 1953年11月3日

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東京物語のレビュー・感想・評価

全68件中、1~20件目を表示

5.0小津やるやん ByZ世代

2025年1月29日
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小津安次郎の『東京物語』(1953)は、尾道に暮らす老夫婦が東京の子どもたちを訪ねるが、それぞれの生活に追われて相手にされない、という物語である。劇中、戦死した次男について「亡くなってから8年」と語られる場面があり、物語の時代設定は1953年頃と推測される。

1950年代の日本は、戦後復興が進み、第1次ベビーブームとともに東京の都市化が急速に発展した時期でもあった。本作は、そうした経済成長の波の中で崩壊しつつある大家族と、新たに台頭する核家族という家族形態の変化に直面する人々の姿を、多面的に描いている。

本作を観る中で、特に注目したのはカメラの画角とストーリー展開である。小津は、従来の映像表現のルールをあえて破る演出を取り入れており、例えばイマジナリーライン(180度ルール)を超えるカットが見られる。このような手法は、独自の映像スタイルを確立する一方で、観客にとっては空間認識が難しくなることもある。

個人的には、この映像表現にはあまり馴染めなかった。特に違和感を覚えたのは、ワンショット(ミドルショット)において障害物がほとんど配置されていない点である。肩越しのショットが少なく、主要人物の会話はほぼ単体ショットで表現される。さらに、二人ショットから単体ショットへのアクションやセリフの繋ぎがなく、画角もほとんどが真正面であるため、登場人物がカメラ越しに直接話しかけているように感じられた。結果として、観客である自分がセリフを言わされているような感覚になり、個人的には苦手なスタイルだった。

また、小津監督のこだわりである固定カメラも特徴的だった。現代の映画ではカメラが頻繁に動くことに慣れているため、動きのないカメラワークが不自然に感じられた。観測した限りでは、カメラが動いたのは上野公園で二人が扉の前の段差に座っているシーンのみだった。さらに、画角に関しても直線的な構図が多く、背景の家の間取りやドア、壁がほぼ垂直に配置されている。そのため、もう少し「斜め」からの画角があれば、より自然な映像になったのではないかと感じた。

編集についても気になる点があった。例えば、登場人物たちが団扇をはたいている場面では、アクションの繋ぎをスムーズに行うのが難しそうに見えた。しかし、それらを差し引いても、本作の物語は想像以上に面白かった。

小津監督については、『小早川家の秋』や『宗方姉妹』などのタイトルを知っている程度で、「家族」をテーマにした作品を多く手がける監督という印象があった。しかし、本作を実際に観てみると、単なるのんびりした郷愁作品ではなく、ストーリー展開が計算され、非常にバランスの取れた作品であることに驚かされた。全体的に緩急のテンポが心地よく、東京や尾道の雰囲気を存分に感じられると同時に、それらに飽きることなく観客の興味を引きつける展開がタイミングよく切り替わる。

例えば、老夫婦が半ば追い出されるように熱海旅行へ向かうシーンを振り返ると、
① 二人の会話
② 騒がしい旅館
③ 二人の会話
④ おばあさん倒れる
⑤ 二人の会話
⑥ 息子たちの薄情さを愚痴る飲み会&原節子の家で泣く
⑦ 二人の会話
⑧ 危篤

と、静と動のバランスが巧みに配置されている。このように、緩やかに見えて計算された展開が、観客を飽きさせない要因となっていた。

ストーリーとしては、藤子・F・不二雄の『オバケのQ太郎』最終回として語られることの多い「劇画Qちゃん」と似た哀愁や切なさを感じた。尾道からはるばる訪れた両親が半ば強制的に熱海へ追いやられる場面や、母親の危篤を知らされた次女が「喪服はどうする?」と長男と話す場面など、目を背けたくなるようなシーンがいくつもある。しかし、小津監督はそれらを激しい効果音や劇的な演出で煽ることなく、あくまで淡々と描く。そのため、京子が家族の冷たさに疑問を抱きつつも、他の登場人物たちは大家族の崩壊を粛々と受け入れる様子が、観客に対しても静かな強制力を持って迫ってくる。

本作は、単なる「古き良き家族の物語」ではなく、戦後日本の家族のあり方や価値観の変化を冷静に描いた作品である。その独特な映像手法や淡々としたストーリー展開には賛否が分かれるかもしれないが、映画表現の多様性を考える上で非常に興味深い作品だった。

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桃子

4.0父母への孝行を思い起こさせられます

2025年1月9日
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小津安二郎監督の不朽の名作。
小津ワールドがにじみ出ているカメラアングル。
ひとつひとつの場面が計算されぬいた配置や情景。
ストーリーも全編が物悲しく
子どもを育て上げた父母に悲しい思いを感じさせる
そんな気持ちが悲しかった。
父母への孝行をしないといけなかったなあと
物思いにふけりました。

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tom

5.0いまさら

2025年1月6日
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無駄なシーン、ショットが皆無、全てのシーン、ショットが「シャシン」として完璧で、且つ全てのシーン、ショットが有機的に関連し合った上に核爆弾並みの爆発力を生み出した奇跡の作品です。

因みに東京物語と全く同じ評価です。

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越後屋

4.0人は時間とともに変わっていく・・・親子、夫婦、縁があった他人・・・...

2025年1月6日
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鑑賞方法:DVD/BD

人は時間とともに変わっていく・・・親子、夫婦、縁があった他人・・・
一言では片づけられない感情を、どれだけ見るほうが感じとれるか試されてるような映画でした。登場人物が私に向かって正面から語り掛けてきます。ここにいるかのような臨場感。む~。。。
私自身どうあるべきなのか、自分に、だれに何をするべきなのか考えさせられました。もう一度、自分を見つめなおすために観たいです。

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キャンティレバー

5.0笠智衆氏も当時49歳でしたが70歳近い初老を見事に違和感なく演じきり、老け役の真骨頂を発揮していましたね。

2025年1月5日
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鑑賞方法:映画館

泣ける

幸せ

早稲田松竹さんにて『小津安二郎監督特集 紀子三部作 ~NORIKO TORILOGY~』(25年1月4日~10日)と題した特集上映開催中。
本日は『晩春』(1949)、『麥秋』(1951)、『東京物語』(1953)のそれぞれ4Kデジタル修復版を英語字幕付きで鑑賞。
英語字幕付きのためか外国の方や若い方の来館者も多く、70年以上前の作品にも関わらず150席の館内はほぼ満席でしたね。

『東京物語』(1953)
『晩春』(1949)『麦秋』(1951)に続く紀子三部作の最終作、国内外で高く評価されている監督の代表作。
本作品での笠智衆氏と原節子氏の役柄は戦死した次男の父親とその次男の未亡人という設定。笠氏より6歳年下の山村聰氏が長男・幸一、2歳年下の杉村春子氏が長女・志げを演じておりますが、笠氏も当時49歳でしたが70歳近い初老を見事に違和感なく演じきり、老け役の真骨頂を発揮していましたね。

本作はレオ・マッケリー監督『明日は来らず』(1937)というアメリカ映画を下敷きにしているようで当初から西欧での評判も意識した模様。確かに劇中の少々強めの子どもたちの自立や独立、親離れといった側面は西欧色が濃いですが、それぞれ家族ができ、月日を経て徐々に薄れていく親子の絆や人生の悲哀は万国共通なのでしょうね。

個人的には本作をオマージュしたジュゼッペ・トルナトーレ監督、マルチェロ・マストロヤンニ主演、音楽エンニオ・モリコーネの『みんな元気』(1990)も大傑作で大好きなのですが権利の都合上、日本国内ではDVD未発売、配信もされていないのが非常に残念ですね。
※2009年にロバート・デ・ニーロ主演でリメイク

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矢萩久登

4.0交通の発達、通信の発達はあるが、この映画で示された本質は変わらない

2024年9月7日
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交通の発達、通信の発達はあるが、この映画で示された本質は変わらない

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トシ

4.0地味だが沁みる一品

2024年7月19日
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鑑賞方法:VOD

泣ける

笑える

難しい

代表作とはいえ、これ一作で小津安二郎を語るのはおこがましいというものですが、作風はなんとなくわかりますね。「PERFECT DAYS」のヴィム・ヴェンダースがインタビューで小津監督のことを話していたのも納得できる気がしました。淡々と日常を描く感じがよく似ています。
(あの映画の銭湯のロビーでうたた寝しているおじさんを主人公がうちわで扇いでやっているシーンなんかはこの作品を意識しているかもしれない)

とにかく昔の日本らしく謙譲と遠慮の精神が見られるシーンが多いのですが、子供は別ですね。まあ、長女の人はひとしきり泣いたあとは形見分けに着物をねだったり、かなり遠慮のないところが目立っていましたが。血のつながった子より、息子の嫁のほうが気を使ってくれることは実際にありうることかもしれません。

おじいさん夫婦が誰にでも愛想よく控えめに応対しているのは、子どもたちにとっては自分たちの相手をすることが仕事の妨げになることをわかっているからでしょう。もちろん、子どもたちの方もすまないという気持ちはありつつも、生きていくためには仕事を疎かにできないという現役の人間としてのやるせなさがあるのだと思います。

セリフや演技の古臭さはともかく、各登場人物の所作とか仕草は自然でとてもいい。食事している場面も結構出てきますが、ぎこちないところがまるでなくてドキュメンタリー映像のようです。あと、昔の日本らしい品の良さみたいなのはありますね。畳に座ってお辞儀するところなどは、今の我々にはなかなか自然にはできない気がします。

また、あまり昔の日本映画を見ない自分からすると、これが笠智衆か、これが原節子か、と興味深かったです。笠智衆はこの時40代だったとか。見事な老人ぶりです。原節子は伝説の女優だけあって華やかな美貌ですね。張り付いたような笑顔がちょっと気になりましたが、役柄もあるのでそれをどう判断するかは難しいところかも。

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Tenjin

4.0小津安二郎が監督した映画を初めて観た。記念すべき1本目はやはり『東...

2024年6月10日
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鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

小津安二郎が監督した映画を初めて観た。記念すべき1本目はやはり『東京物語』から。1週間で2回観た。
「何度も繰り返し観る方がいるのだろう」と納得がいった名作。

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ナイン・わんわん

4.5世の中ってイヤね…。

2024年6月6日
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鑑賞方法:VOD

泣ける

悲しい

幸せ

そうね、イヤなことばかりね…。

目の前で繰り広げられる映像、音楽はとてもほのぼのとして優しげな雰囲気に包まれているのですが、込められたメッセージたるや…!身につまされる思いでした。家族とは?親子とは?グサリグサリと胸を突き刺してくる、笠智衆と原節子の笑顔。く…苦しい…(泣)勘弁してくだせぇ…(泣)

戦後間もない頃の親子や家族間の関係性の変化を嘆くようなお話。この映画から更に70年経った今、日本はどうなったか。時代と共に倫理観や価値観は移り変わっていく。そこには善悪は無く、ただただ「やるせねぇなぁ」という無力感が漂うのみである。

観客に語りかけてくるような独特なカメラワークが面白かったです。そのせいで「え?私に言ってる?うへぇ」って具合に罪悪感を植えつけられます。お父さん、お母さん、ごめんなさい…m(_ _;)m

ストーリーは非常にシンプルですが、現代人にも訴えかけてくるメッセージ。優しい気持ちと思いやりを忘れずに生きたいものです。

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吹雪まんじゅう

4.5人生の哀歓‼️

2024年5月16日
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泣ける

悲しい

幸せ

小津安二郎監督が「家族制度の崩壊」を描いた最高傑作⁉️私的には違うけど‼️子供たちの家を訪れた老夫婦が、次第に(誰も口にしないが)お荷物的な存在となっている自分たちに気づき、故郷へ帰る。しかし母が急死、今度は子供たちがやって来るが、忙しさを理由にすぐ東京へ帰ってしまう。最後まで残ったのは戦死した次男の嫁だった・・・‼️という、ただそれだけのシンプルな話‼️そんなシンプルな話の中に、小津監督は「一生懸命育てたのに、子供たちもあてにはならない」という現代にも通じる家族のあり方を描いていますよね‼️ハリウッド映画にありがちな押し付けがましい感動ドラマとは違って、この作品には嘘臭いセンチメンタリズムは一切ナシ‼️小津監督得意の固定カメラで描かれる物語は残酷で無情なんですけど、どこかスタイリッシュでまったく古さを感じない‼️ホントに究極の家族映画ですよね‼️特にラストの尾道での笠智衆さんと原節子さんの会話のシーンは忘れられない名場面‼️出演者ではやはり長女に扮した杉村春子さんがピカイチ‼️その杉村春子さんの何気ないセリフ「お義姉さん、喪服どうする?」と電話をかける場面は、いつ観ても背筋に冷たいモノが走ってしまいます‼️

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活動写真愛好家

4.0動く浮世絵を観ているよう。

2024年1月4日
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鑑賞方法:TV地上波

アキカウリスマキの枯れ葉、ヴィムのパーフェクトデイズと続いたので、久々に原点回帰。
たらい回しされる両親。そして、山村聰の意志のなさと、杉村春子の薄情さ、大坂志郎のあっけらかんとした様子。他人の家族とはいえ、観ていてやはり気持ちの良いものではないが、原節子の内助の功的な控えめな役回りが和む。
場面転換でインサートされる戸外と家財道具が映り込む画角の景色が、良い味出してる。

備忘録
今となっては時代考証的作品として機能する。

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ラーメンは味噌。時々淡麗醤油。

5.0何とも心地良い時間

2024年1月3日
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鑑賞方法:VOD

家族の絆、親と子の在り方、人と人との繋がり、そして別れ。
それらを静かに淡々と、あるがままを映した作品。
原節子の柔らかさ、それと笠智衆の木漏れ日のような芝居が本当に良い。
実に久しぶりでしたが、新年に観るにはぴったりでした。
実に清々しい、何とも心地良い時間でした。
今尚傑作です。

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白波

4.5喪服どうなさる?

2023年11月28日
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悲しい

楽しい

怖い

タイトルやイメージからほのぼのとした家族の物語を期待すると痛い目をみる映画。

切り返しによる独特のテンポと間、強迫的な煙突のインサート、飄々とした笠智衆の演技、原節子の人間離れした微笑みなど見所も多い。
杉村春子の「喪服どうなさる?」は戦慄の名場面。

むかし撮影背景を調べたときに、老夫婦が上京したのが足立区の北千住界隈であったことを知る。
つまりあの土手は荒川で、インサートの煙突はつげ義春の漫画でも有名な「おばけ煙突」だったのだ。

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movienoyuya

5.0原節子さんの優しさに感動❗

2023年8月30日
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鑑賞方法:DVD/BD

過去に、世界の映画監督が選ぶ映画ベスト第1位に選ばれた
小津安二郎監督の作品を鑑賞しました。

今まで幾度となく途中で挫折したこの映画。今回は、最後まで一気に観ました。
世界1位になった理由が分かりました。どこにでもある一般的な家族の姿を
映し出してあるのですが、その描きかたが秀逸で、ラストでは感極まるものが
ありました💧老いることは悲しいことですが、原節子さんの温かな優しさに触れ
何が人生で大切かを実感しました。評価どおりの素晴らしい映画でした。

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ララ

5.0エゴイズムとヒューマニズム

2023年8月12日
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鑑賞方法:DVD/BD

泣ける

知的

幸せ

尾道に住む周吉(笠智衆)ととみ(東山千榮子)
夫妻は、子ども達が暮らす東京へと旅行に
出かける。
実の子どもである長男の幸一(山村聰)や
長女の志げ(杉村春子)より、
次男の嫁・紀子(原節子)だけが、
親身になって世話を焼いてくれた。

周吉ととみの会話や、とみと紀子、周吉と紀子の
会話から感じる優しさが沁みたな〜。

でも、実際に自分はこの長男や長女みたいな
態度で親に接していたと反省するも、
親孝行したいときには親はなし...

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ほんのり

4.5時の流れ。大河のごとく。

2023年8月7日
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鑑賞方法:DVD/BD

単純

知的

難しい

「家族を描いた映画」と聞いていた。ほのぼの系の家族称賛の映画かと思っていた。
 いや、シビア、シビア。
 昨今のいろいろな家族を見ていると、これが「家族崩壊」と言われると「甘い」と思ってしまうが、確かに”大家族”が崩壊し、核家族に移行していく時代を切り取っている。
 人によっては家族とは何なのだろう、自己実現との兼ね合いを考えさせられる。

郷愁を誘う。
 この映画では、両親が子どもたちの住む東京を訪ねる顛末から始まるが、私は小学生から中学生にかけて、父の田舎に帰省した日々を思い出してしまった。
 小学生から中学生になると、周りの大人が忙しそうにしていることにも気づき、いとこ達も部活や自分の友達と遊ぶことが優先になって、一人ぽつねんと居場所を見つけられなかったあの時間。田舎の親戚も、せっかく帰省した私たちを気遣って、近くの行楽地等に連れて行ってくれるものの、お盆休みのない職業に従事していた人々も多く、日常の近所付き合いもあり、帰省期間、毎日がお祭りだったわけでもない。勝手知ったる土地でもなし、親戚の家からそう離れることもできず、この映画の老夫婦みたいに、家の中に居場所を見つけられず、わずかにわかる場所をふらふらと。”嫁”の立場の母は、この映画の長男の嫁のように、親戚の手前、「いい子にしていないさい」とヒステリックになり、次男の嫁のごとく、田舎の舅・姑に尽くす。父といえば、久しぶりの実家なので、トドのように動かず。母をかばいもせず。親戚同士の歯に衣着せぬ物言いを聞き。
 そんな居心地の悪さを思い出した。

そして、今。
 どの方も指摘なさっているが、鑑賞する年代によって、老両親に感情移入したり、子ども世代に感情移入したり。
 親が来てそれなりのことをしてあげたい気持ちはあるものの、日常との兼ね合いが優先されてしまう子どもたち。
 特に長男は町医者で、今のような診療時間などなく、患者がいれば、往診に行く。その犠牲になっているのは、老両親だけでなく、長男の子どもたち(孫)。夜間・休日診療とか、救急車も今のようには整っておらず、町医者が頼り。
 長男の嫁は、舅・姑のために尽くしたい気持ちはあるが、夫に止められる。アテンドしようかと提案した時に、「いいよ。お前が(家に)いなけりゃ困るだろ」との言葉。夫の意思を無視して動かない当時の理想の嫁。夫に頼りにされているととるか、舅・姑や子どもたちの喜ぶ顔が見たいのにわかってくれないととるか。複雑だが、最後の老夫婦の言葉を聞くと、長男の嫁って損だなあと思ってしまう。
 長女も美容室の経営者。店だけでなく、寄り合いに忙しい。商店街の寄り合いか、技術向上の同業者同士の寄り合いか。どちらにしても、その土地で生きていくためには邪険にできないつきあい。
 長女の婿は、寄席のようなところに連れていく、銭湯に付き合う等、おもてなしをしているが、妻である長女と喧嘩してまで、舅・姑のためには動かない。老両親には悪いが、妻を立てるあたり、家庭円満の秘訣である。
 電話でもあれば、お互いの都合をつけて上京できたのであろうが、尾道と東京のやり取りは電報のみ。突然上京されて困った面々の動きが丁寧に率直に描かれる。田舎のように、部屋が有り余っているわけではないのも混乱に拍車をかける。
 会社勤めの次男の嫁が、自分に任された仕事の都合をつけて(この頃有休ってあったのか?)、老夫婦の相手をする。上司に、仕事の進捗状況を確認されるあたりがリアル。まだ、結婚とは”家”に嫁ぐという意識が濃厚な時代。そういう親戚づきあいをきちんとできるのが女性の嗜みとされた時代。事業主とサラリーマンと言う働き方の違いもはっきりくっきり。
 大阪にいる三男は、列車の中で具合の悪くなった母と、付き添っている父のために、仕事中抜け出して手当できるが、出張で大切な電報を受け取れず、後手後手になってしまう。
 老両親と同居している次女は、勤務中に、両親の様子を見に来れているおおらかな時代。今なら、介護申請とか、有休を使ってと手続きを踏まなければ大問題となるだろう。時間の流れが、この時代でも東京と尾道では違う。
 そんな登場人物のやり取りが、必要最低限に切り取られて、映画が進んでいく。

人物造形はある一種の典型。
 おっとりとした長男。独楽鼠のように動く長女。理想的な嫁として描かれる次男の嫁。長男の嫁がしっかりして隙がないのとの対比も際立つ。一人大阪にいる糸の切れたような三男。まだ世間を知らぬ甘さを持つ末っ子次女。
 それぞれ子どもたちの配偶者との出会い等は想像がつかぬが、尾道で家族7人で暮らしていたころがしのばれる。教育関係の役職等にもついていたが、若いころにはお酒の失敗もあった父のフォローや、幼い弟妹の世話を、母を助けて長女がしていたのであろう。そのそばで、一家の跡取りである長男は勉強に励んでいたのか。農業・漁業等、家を”継ぐ”職業ではなかったから、東京に出て大学で勉強してそのまま医院を開いたのか。医者として従軍して、そのまま東京にいついたのか。
 まだ、兄弟の序列がはっきりしている。一番しっかりしてそうな長女は、常に長男に相談し、了承を得る。次女は兄姉に文句があっても面と向かっては文句を言えない。両親を見ているのだから一番強くたっていいのに。
 反対に、次男の嫁の背景は見えない。尾道には行ったことがない様子なので、次男とは東京で知り合ったのか。東京空襲で親族が亡くなって天涯孤独?親戚や近所の人の口利きで縁談が来るケースが多かったと聞く時代に、そういう世話を焼いてくれる人は身近にいない?一人で暮らしていくより二人の方が経済的だからという理由で結婚する人が多かった頃と聞くが、一人で自活できるキャリアウーマン。そんな風に考えると、紀子のこの先の不安と期待や、舅・姑への思いも身に迫ってくる。

映画は、ひと夏の思い出として尾道の情景を描いて幕を閉じるのかと思えば、急展開。前振りはあったが。
 この時のやり取りも、あるあるが満載。移動時間だけでなく、帰省にかかる費用も、自営業者の長男・長女は頭の中で算盤をはじいているに違いない。(21時発の列車で翌日の昼過ぎに着くって、今ならエジプトやブラジルの距離感?)とはいえ、親の一大事。結局、親をとる。たかが、されど”喪服”。世間の手前、役職者だった父の顔をつぶすような真似もできない。喪主としてみっともないものは着られない。ファストファッションの店なんて論外だし、そもそも店がない。レンタル業者もおらず、借りるとなったら、近所の方のをしかない。画上の都合か、長男の嫁・孫、長女の婿は来ず。
 不思議なのは、東京訪問時の次男の嫁の有様からすれば、「危篤」の電話を受けた後、すぐに帰省するための行動に移すのかと思えば、紀子はいったん机に戻って、思案する。何を思案していたのだろうか。母の東京ラストでのやりとりや、映画最後の方の父とのやり取りが頭をかすめてしまう。

昨日と明日が同じで、今の生活を続けることに余念のない長男・長女・三男・次女。
同じく独り身となった次男の嫁と、父。同じ境遇ながら、二人の思いは分かれる。若い次男の嫁は未来を見つめだし、それゆえの不安・捨てがたい情・自分に張られた過度な評価の中で葛藤する。父は過去の中に置き去りにされる。映画ラストの言葉が身に染みる。

そんな人生の一コマを淡々と描いた映画。”死”さえも、特別なことではなく、日常の通過儀礼のごとく。けっしてドラマチックに描かない。
 なのに、この家族のこれまでと、これからが大河ドラマのように浮かび出てくる。”ある”家族の”ある”が”The”でもあり、”a”でもあり。
 戦争未亡人に、過去にとらわれるんじゃなく、新しい人生をつかむように背中を押す言葉。それだけでも、心をわしづかみにされる。日本だけでなく、各国にいる未亡人や未亡人にかかわる人はどんな思いで、このやり取りを聞いたのだろう。
 その言葉だけでなく、親の有様。東野氏演じる沼田とのやり取りで、親にも親のうっぷんはあれど、それは直接子どもたちには伝えない。熱海の出来事でさえ「よかった」のみ。子どもたちが子どもたちなりに考えて、親である老両親のためにしてくれたことへの感謝ゆえ。
 文句はあれど、子どもたちのすべてを包み込むような両親の存在が、ファンタジーで癒される。
 一つ一つのシーンを見ていると、かなりシビアなのだが。

特筆すべきは、こんなスローテンポで物語が進むと、途中で眠くなってしまうのだが、この映画ではそうならない。
 緩やかに始まるが、どんどん出てくる毒。次に長女が何をしてくれるのか待ってしまう自分がいる。血がつながり、家を出るまでは良いことも悪いことも共にしていた気の置けなさ。そんなきつさだけだと飽きてしまうが、嫁の立場を守り、清涼剤のような次男の嫁。両親のおおようさ。暖簾に腕押しの長男と長女の婿。舞台は下町。どことなく気ぜわしさも漂う。凝縮された、光と影、長男家の炊事場がその雰囲気を表す。
 熱海の昼と夜の落差。今ならある程度遮音の個室だが、当時は襖一枚。外には流しの音楽隊。夫唱婦随を地で行く夫婦。だからこそ、その動きがシンクロして、コントのような笑いを誘う。
 原さんのたおやかさ・控えめな上品さがよく取りざたされるが、いろいろなタイプの女性も出てくる。おっとりとした母。眉間に皺寄せた長男の嫁。世話焼きの長女。世間知らずな次女。酔客のあしらいのうまい女将。腕まくりして、頭にカーラーをつけ、女性も麻雀に参戦。他にもいろいろ。
 映像の美しさも際立つ。よくローアングルとか解説にある。正直よくわからないが、ある場面ー例えば長男の家の炊事場。人を追いかけるのではなく、その画面に次から次に人が入り、出てとまるで舞台を見ているよう。かえってダイナミックに感じ、次何が起こるのか、わくわくさせられる。
 解説にも、計算しつくされた映像とよく読むが確かに。
 なのに、”淡々と”映画は進む。

主役は、笠さんと原さんと紹介される。
 確かに、前述のように、未来を見つめる紀子と枯れていくだけの周吉の対比とすれば、老親と嫁の心の交流だけに焦点を当てれば、この二人が主役なのだろうけれど。
 この映画の世界観を作っているのは、周吉ととみ。登場人物総てを包み込む、この二人の雰囲気がなかったら、観賞後感が全く異なってくる。おっとりとした夫唱婦随がなかったら、最後の言葉は響いてこない。
 シビアすぎるほどにリアルに描きながら、どこか生だけでなく死でさえも、どんな思いも包み込んでしまう映画。
 魔法にかけられたようだ。

鑑賞すればするほど、いろいろな思いが頭と心を駆け巡る。
なんて、映画だ。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

風俗にも目を見張る。
 赤ちゃんが食卓カバーのような蚊帳の中で寝ている。動いている。
 紀子の家の共同炊事場。
 浴衣の寝巻のままで、ドアを開けてしまうんだ…。
 他にも、音声解説を聞くと、今はすたれてしまったが、昔はどの家でも持っていた、玄関に提灯とか、こだわった意匠があるという。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

DVDには音声解説がついていたが、本編と解説の声がごっちゃになって聞き取りづらかった。笠さんも出席されていたが、ほとんど発言なく…。損した気分…。
 だから-0.5しているわけではないが。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

≪2024年11月15日追記≫
『麦秋』鑑賞。 『東京物語』『晩春』と合わせて『紀子三部作』と言われる映画。
 ほとんど、演じる役者が同じなのに、まったく異なるテイスト。
 同じように、家族のドタバタが描かれるのだが、違う人物造形。例えば、『東京物語』では長男の嫁と次男の嫁として、比較対象されてしまう三宅さんと原さんだが、『麦秋』では、長男の嫁と、小姑という関係なのだが、姉妹のように仲が良く、一緒に高価なケーキを隠し食いしたりする。『東京物語』での三宅さんは眉間に皺寄せ硬いが、『麦秋』では人妻の美しさが際立つ。
 他にもと上げていくとキリがない。
 改めて小津監督のすごさを感じた。

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とみいじょん

5.0私ずるいんです

2023年7月29日
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泣ける

悲しい

知的

私個人の話になってしまいますが、出身地方が尾道と同じ方言のため、老夫婦が私の祖父母に重なって見えてしまい客観的にレビューできません。

2023年になっても1953年に公開されたこの映画で描かれている家族の在り方が、そっくりそのまま通用するのは、この映画がいかに普遍的なテーマを描き切ることに成功しているか示しています。

年を取ると家族がどんどん離れ離れになっていって自分の生活が大切になっていく。
老いていき孤独になって、人生って家族って何なんだろうか。

この映画が描いているテーマは、恐らく今後も変わることがない平凡なテーマです。
家族の在り方をテーマにした映画は多くありますが、この映画にハッピーエンドはありません。
ただそれがバッドエンドだったかと言われるとそうでもありません。
よく言えばトゥルーエンドとでもいうべきか、人の一生は多かれ少なかれ恐らくみんながこの映画のような結末を迎えるのでしょう。

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ぐにゅう

4.0意外とコントっぽいというか、人間がそもそもコントなんだな。

2023年7月23日
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意外とコントっぽいというか、人間がそもそもコントなんだな。

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ouosou

5.0我が生涯シネマベストテンの一作に再び…

2023年7月16日
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私にとっては、
小津映画のベストワン作品でもあるし、
生涯の映画ベストテンの一作でもある。
新聞紙上で、
小津監督に関する新刊書の紹介があり、
「紀子三部作」に触れていたので、
「晩春」「麦秋」に続いて何度目かの再鑑賞。

「紀子三部作」の前二作では、
離れがたい家族の絆を描いていたように
感じたが、
この作品では血縁だけに留まらない、
一見、新しい絆の形を先取りしているように
見えて、実は、
紀子が再婚しない姿を通じ、
義理の関係ではあるものの、
やはり、その関係から抜け出せないでいる
同じような印象がある。

また、今回、改めて感じたのは、
都会に出て
子供達に邪険にされる老夫婦の姿は、
「リア王」やその翻訳版の黒澤「乱」の
小津バージョンにも思えると共に、
都会生活で人間性を見失う
「ニュー・シネマ・パラダイス」との
共通点だった。

だから、この「東京物語」の“東京”は、
むしろ否定的意味合いにも感じたが、
小津作品の多くに見られる、
鎌倉に住み、東京へ通勤する設定も、
そんな大都市への嫌悪感の一貫
なのだろうか。

幾度となく観てきたこの映画、
終盤の感動の場面を思い浮かべながらの
この度の鑑賞でも、
たくさんの伏線のシーンに更に涙し、
そして作品の最後に配された
人間の優しさを凝縮したかのような
父と義理の娘の会話のシーンには
改めて号泣させられるばかりだった。

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KENZO一級建築士事務所

3.5どこを切り取っても凄い画像

2023年7月2日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

戦争の落とす影、家族、世代の隔絶、都会と地方、生と死...いろいろな問題が盛り込まれた人情譚。シブい映画でした。やや難を言えば、登場人物が多くてしかもキャラが部分的にカブってるし、込められた問題意識もたくさんありすぎってこともあって全体的にごちゃごちゃした感が否めないんですね。

どこを切り取ってもモノクロの芸術写真になるような、きりっとした画像の凄さに痺れました。

ただし原節子はデブいなあ...

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arlecchino