「帝都物語を是非お読みになってから、本作をご覧ください」帝都物語 あき240さんの映画レビュー(感想・評価)
帝都物語を是非お読みになってから、本作をご覧ください
読んでから観るか、観てから読むか
これは1977年の角川映画「人間の証明」の宣伝文句
小説が映画化されると、なんでもこれが悩ましいから、上手いキャッチフレーズです
角川ノベルから刊行されていますが、角川映画ではなく製作はエグゼ
この会社は当時飛ぶ鳥を落とす勢いだった西武百貨店などのセゾングループの映画製作会社です
製作者の堤康二は、そのセゾングループの総帥堤清二の息子だそうです
そのセゾングループもバブル崩壊で解体されてしまいました
正に今は昔のことです
本作は必ず読んでから観るべきです
だって加藤保憲とは何者?、式神?龍脈?五芒星?
普通の人なら聞いたこともないワードが説明無しに使われて、奇想天外な物語が展開されるのですから理解不能な映画に確実になります
当然です
実相寺監督の独特の雰囲気や映像美を味わう目的としても、原作を読んでなければ意味不明でしかないでしょう
原作小説は1985年から1987年にかけて、新書版で全10巻、他に番外編2巻、外伝1巻が刊行されてベストセラーになっています
1987年には日本SF大賞も受賞しました
本作は本編10巻のうちの4巻までを映画化したものです
原作は大変に面白く、読みはじめたなら夢中になると思います
著者荒俣宏の博識ぶりには感銘を受けることでしょう
もしこの原作を少しも面白いと感じられないようなら、もう本作のことはお忘れ下さい
あなたとは合わない映画です
因みに、「銀河英雄伝説」の原作小説も1982年から1987年まで、本編の全10巻が刊行中でした
つまり「帝都物語」と同時平行で刊行されていた時期があったのです
なのでその頃は毎月「帝都物語」か「銀英伝」のどちらかが発売されているような状況になりました
ですので読むのに忙しいというか、嬉しい悲鳴状態だったものでした
本作は、なんといっても嶋田久作の演じた魔人加藤保憲のビジュアルイメージの破壊力が凄まじく、本作と言えば加藤保憲!となります
ですから正直成功した映画とは言いかねる作品でありながら、続編的な映画が2本、OVAまで作られています
漫画版も3人の作者からそれぞれ発表されていますし、加藤保憲のキャラは、「勇者警察ジェイデッカー」のキャトー・ノリヤスなど、様々な他の作品にまで登場するほどです
しかし加藤保憲だけに目を奪われていていてはもったいないのです
改めて観れば、本作には忘れられるにはあまりにも惜しい、もっと正しく評価されるべきことがあると気づかされます
それはまず、特撮と式神などのクリーチャーです
特撮の巨匠レイ・ハリーハウゼンの世界的名作「シンドバッド黄金の航海」に登場したホムンクルスを思わせる大きさと姿形なのです
そしてその動きはハリーハウゼンのダイナメーションを再現したコマ撮りアニメーションなのです
終盤には、その作品に登場した超有名な6本腕の「陰母神カーリー」まで登場するのです!
ハリーハウゼンへの大きなリスペクトを感じます
これに気づかないようではオタクとは名乗れません
「エイリアン」のデザインをして世界中に知られるようになったH・R・ギーガーのクレジットもありますが、終盤に空中を飛び回り回転ノコギリのように薙刀の柄を切断する護法童子のみ彼のデザインです
特撮監督のクレジットはないのですが、絵コンテとのみ記載されている樋口真嗣さんが実際は特撮を担当されたようです
東宝は配給だけなのですが、東宝特撮の系譜に入れられるべき作品であると思います
東宝特撮の怪人路線の末裔作品
それが正しい位置付けであると思います
そして、昭和2年の銀座が再現されたオープンセットの目を見張る出来映え
CGがない時代にガチンコで此処まで再現したのですから驚くべきものです!
ここまで巨大で正確さを徹底されたオープンセットは他には思い当たらないほどです
そして、忘れてはならないのは原田美枝子です
終盤の加藤保憲との最終対決に向かうシーン
月明かりの下、白袴の巫女服に朱色の襷をかけ、薙刀を持ち白馬に跨がるのです
凛々しく、そして美しいその姿のインパクト!
彼女の清い白い肌、正しい意志の強い目と眉、その美貌に相応しい説得力があります
黒澤明監督の「乱」での楓の方にも負けない印象があります
嶋田久作の加藤保憲だけが取り上げられて忘れてられているのは余りにもったいないことです!
彼女の役の辰宮恵子は、相馬俤神社の巫女でした
相馬は東日本大震災で起こった原子力災害の非難区域のすぐそばの所です
そういえば2015年の秋葉原通り魔事件の犯人の名前は加藤でした
そしてコロナの緊急事態宣言で無人となった銀座通りの光景
あれもこれも加藤保憲の仕業であったような気になって来ます
そぞろ地震が増えてきています
何者かが龍脈を・・・なんて妄想に浸れます
帝都物語を是非お読みになってから、本作をご覧ください