妻は告白する

劇場公開日:1961年10月29日

解説

文芸春秋所載の円山雅也の『遭難・ある夫婦の場合』を「拳銃野郎に御用心」の井手雅人が脚色「好色一代男」の増村保造が監督した異色篇。撮影は「夕やけ小やけの赤とんぼ」の小林節雄。

1961年製作/91分/日本
原題または英題:Her Confession/Wife's Confession
配給:大映
劇場公開日:1961年10月29日

あらすじ

初夏のある日、北穂高滝谷の、第一尾根岩壁にしがみついていた、三人のパーティの一人が足を滑らせて転落、ザイルで結ばれていた真中の女も、引きずられて宙吊になった。最後部の男によって辛うじて支えられたが、宙吊の男が、近くの岩に飛びつこうと体を揺らせ始めたので、重みに耐えかねた男は絶叫し、その手から血がふき出していた。その時女はナイフで自分の下のザイルを切った。男は落下し、女は引き上げられた。死んだのは女の夫で大学の薬学の助教授滝川、もう一人は、愛人の幸田だった。妻滝川彩子は告発されて法廷に立った。彩子が幸田と情を通じていた事、夫に五百万円の生命保険がかかっていることをもとに、検事は有罪を主張し、弁護士は殺意を持っていなかった点、自分の生命を守るためのやむを得ぬ行為という点から、無罪を主張した。夫の死体を引きとる時にも涙一つ見せない彩子は、性格のきつい女だった。幸田を愛していた婚約者理恵は、この事件で幸田の愛情を疑い始め、裁判中というのに秘かに二人が逢っているのを見て絶望的になった。戦災孤児で親戚にひきとられていた彩子は、薬剤師を目ざして勉学する傍ら、滝川の雑用をしていたが、過労と栄養失調で自殺も考えたほどだ。そんな彩子を滝川が拾うように結婚した。子供が出来ても生ませない、便利で安上りの家政婦のような生活に、離婚を迫った時もあったが、彼は逆に一生飼殺しにして自由を奪ってやる、と広言したのだ。そんな時滝川に連絡に来ていた製薬会社社員幸田と知り合った。幸田が滝川に保険を勧めた時、二人の関係に気づいていて自分の収入の半分もの金を掛けたのは、生活費を減らして彩子を苦しめるという、彼らしいやり方だったのだ。判決は無罪だった。杉山弁護士の奔走によって二人の間柄はこくめいになっていった。二人は互に愛情を持っていったが、体の関係は持っていなかった。彩子の方が、幸田に積極的だったのだ。ザイルを切り離したのは、殺意ではなく幸田を救おうとしたためというのだ。幸田は彩子との結婚を心にきめたが、噂を嫌った彩子はアパートに越した。幸田は汚なくても自分の所に住もうと口論した。「あの時本当に分ったわ、私が愛していたのはあなたなのよ」この言葉に驚いた幸田は大阪への転勤を申し出、受理された。幸田は彩子との結婚に危惧を抱いたのだ。出発の日、やせ細った彩子が幸田を社へ訪れた。結婚を哀願しても冷くされ、彼女は玄関先で毒をのんで倒れた。遺留品の中に幸田が受取人の五百万円の小切手があった。医務室の外にいた理恵は吐き出すように幸田に言った。「奥さんを殺したのはあなたよ、奥さんが人殺しならあなたも人殺しよ」。

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スタッフ・キャスト

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映画レビュー

4.0黒い和服で雨に濡れた若尾文子の姿は、強烈!

2025年7月25日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

若尾文子映画祭。3回目となるこの映画祭の、最終日の最終回に鑑賞。
朗らかな若尾文子の〈Side.A〉、濃厚な若尾文子の〈Side.B〉に分類して上映された今回の企画で、4K版初披露の本作は〈Side.B〉の目玉の一つ。

殺人か、緊急避難か。弱い女の不幸か、強かな女の策謀か。犯罪定義への該当性を争う松本清張を彷彿させる法廷劇は、実は、女の情念の恐怖と悲劇を描いた異色サスペンスだった。

製薬会社の総務に所属する(営業のように見えたが…)幸田(川口浩)は、共同開発者である教授の滝川(小沢栄太郎)に委託リベートを支払う業務に加えて、さまざまな便宜を図るために滝川宅を足繁く訪問していた。滝川には年の離れた美しい妻・彩子(若尾文子)がいた。
滝川夫婦と幸田の三人で挑んだ穂高の山岳登攀で事故(事件)は起きたのだった。

綾子に殺意があったのか否か、裁判で示される目撃証言とその背後にある事実の描写が巧みに構成されていて、見ごたえのあるサスペンスだ。
滝川のゆがんだ独占欲に対して幸田の綾子への同情心は純粋だった。だが、裁判で幸田と綾子が不倫関係にあると再三語られることに触発されたかのように、綾子の思いは幸田にのめり込んでいく。
裁判結審後の物語の終盤は、もはやホラーだ。
常軌を逸したような綾子を演じる若尾文子が、恐ろしくも美しい。

大学の研究室で教授の滝川に犯された綾子は貧しい育ちで、経済的な安心を得るために滝川の妻になった。
裁判での検察は、妻の在り方の常識に照らして犯罪を立証しようとする。
高度経済成長の真っ最中、戦後の影がまだ色濃い時代(私が生まれる前年)が舞台で、現代ではとうてい考えられない物語。

川口浩がその後「探検隊」の隊長となって世界中の秘境を旅することになろうとは、この頃はまだ誰も知らない。

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kazz

1.5法廷ミステリーみたいな構成

2025年6月27日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:映画館

怖い

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ねこたま

3.0危険な情事

2023年8月26日
iPhoneアプリから投稿

火サス系譜の源流。
終盤の若尾のあの立ち姿から「危険な情事」を一本撮れそう。
川口浩の味気無さを邪魔にならない演技と評すか。
この美人妻にして気持ち悪く酷過ぎる昭和亭主の描写が作劇のバランスを欠く程に濃い。
見て損無し。

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きねまっきい

3.5別れる決心

2023年6月11日
iPhoneアプリから投稿

パク・チャヌク『別れる決心』のリファレンス元として本作が挙げられていたのをちらほらと見かけていたが、ギミックといいそこに展開されるドラマの顛末といい思った以上に『別れる決心』だった。

本作も『別れる決心』も男が女の心情をうまく見定められないがゆえに悲劇が起きてしまうというものだ。『別れる決心』では主人公の刑事が50年代ノワール映画的なファム・ファタール幻想を終ぞ捨てきれず、殺人容疑者の女を自死に至らしめてしまう。一方本作では主人公の青年が相手の女に過度な潔白さを求め、「人を殺すような人間に人を愛すことはできない」ともっともらしい正論を並べ立てる。文字通り命を賭けた愛情表現を冷たく退けられた女は自ら命を絶ってしまう。

人間を一つの端的なイズムに還元することは不可能だ。人間はそこまで単純じゃない。女をファム・ファタール幻想や潔癖主義に押し込めてしまうというのも、結局のところは神聖視という名のミソジニーである。この無意識の蔑視が招来する悲劇を巧みな脚本と演出で描き出したのが『別れる決心』だが、まさかその半世紀以上前に同じような映画が既に存在していたとは…

ただまあ作品の1/3ほどを占める法廷劇のシーンは口頭で述べられたシチュエーションが映像によって淡々と追認されるだけなので正直やや退屈気味。増村保造の映画にしては映像にあまり華がないように感じた。

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因果

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