「【伊丹十三監督の、諧謔味溢れた、”食”をテーマにした傑作。メインストーリーの狭間のエロティックなサブストーリーも魅力的である。】」タンポポ NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【伊丹十三監督の、諧謔味溢れた、”食”をテーマにした傑作。メインストーリーの狭間のエロティックなサブストーリーも魅力的である。】
ー 私事であるが、伊丹十三氏のエッセイは、高校生以来、耽溺、愛読している。「ヨーロッパ退屈日記」を始めとした名エッセイの数々は家人の断捨離攻撃を受けながらも、全冊、書棚に収められている。
その伊丹氏が初監督した「お葬式」が、大ヒットと聞いた時は本当に嬉しかった。が、年代的に劇場で観ていない・・。その後別媒体にて、複数回鑑賞はしている。-
■今作、「タンポポ」は個人的に、伊丹監督作の中でも特に好きな作品である。
それは、冒頭、いきなり映画館がスクリーン側から映され、そこに愛人(黒田福美)を連れて現れたオフホワイトの三つ揃えのスーツと粋な帽子を被った男(役所広司)が、颯爽と最前列に座った時、後列の若いカップルがポテトチップスを上映前に”パリポリ”と食べている時に(後年、女性が松本明子さんだったと聞いて、驚いたものである。)
男が、”美味しい?”と言って、ちょっとポテトをつまむ。
そして”もし、映画が始まってこれを食べる音が聞こえたら、俺、お前を殺すかもしれないからね!”と若い男の胸倉を掴んだ後、男と愛人の前に、やおらテーブルが運ばれ、フランス料理、ワインが運ばれてくるシーンで一気に、引き込まれたものである。
- それ以来、私はパブロフの犬ではないが、映画館でポップコーンを買った事は、一度もない。-
◆メインストーリーは、映画好きであれば多くの人が知っていると思われるので、割愛。
◆今作の魅力は、メインストーリーとして進行する、”オフホワイトの三つ揃えのスーツと粋な帽子を被った男”のバージョンを代表とした幾つかのサブストーリーであろう。
- エロティックなシーンが多い。愛人とホテルで戯れる数々のシーン。ー
・愛人の柔らかそうな胸の上に置かれた芝海老をガラスのカップで囲い、跳ねる海老の動きを喜ぶ愛人の姿。
・愛人と卵の黄身を口移しで出し入れし、最後は愛人が恍惚とした表情で失神するシーン。
・男が、海辺に行き若い海女さん(洞口依子)から、牡蠣を向いて貰い彼女の掌から、そのまま食べるシーン。牡蠣の殻で唇を切り、血を流す男に対し、舌を伸ばしてその血を舐める海女さんの姿・・。エロティシズム極まれりのシーンである。
- ちょっと、今書いているだけでも、観た時の興奮が思い起こされる・・。ー
- その後も印象的なシーンがメインストーリーの合間に挟まれる。-
・品よくパスタを食べる”マナーお勉強会”のシーン。先生(岡田茉莉子)が仰々しく、巻いたパスタをスプーンに乗せて、音を立てずに食べる練習をしている脇で、豪快に音を立ててパスタを食べる外国人の太った男の姿を見て・・。クスクス笑う。この逸話は、実際に伊丹氏が外国で経験した事実を基にしているようである。(エッセイに”恥ずかしい思いをしたこと"が書いてある。)
・高級フレンチに行った重役以下の連中が、慇懃なウェイター(橋爪功:何だか良く覚えている)が注文を取りに行った際、メニューのフランス語が読めず、”舌平目のムニエル”を右で倣えで頼んだ際に、一番下っ端の男(加藤賢崇)がワインの銘柄も確かめながら、次々に注文をしていく様。彼の直属の上司(高橋長英!)の”チック”は絶品である。
・タンポポの息子がホームレスたちに会い、”ノッポサン”(高見映)に連れられて、夜中の洋食店に忍び込み、オムライスを手際よく作るシーン。
- 今では、超有名なタンポポオムライス誕生の瞬間である。-
そして、タンポポのラーメンを作る事に協力する事になったセンセイ(加藤嘉)をホームレスたちが見事な合唱で月夜に送るシーン。名シーンである。-
・夜、スーパーに忍び込んで、桃、カマンベールチーズetc.に次々に親指でグチャグチャにする老婆(原泉!)とスーパーの店長(津川雅彦)の追いかけっこ。
・歯痛に悩まされる男(藤田敏八)と、男を治療する歯医者と二人の色気たっぷりの女性助手 ー腋毛が・・-。
そして、男が治療後、”無添加物で育てています・・”というメッセージが書かれた段ボール紙を首から下げる幼子にアイスクリームを与えるシーン。
・”東北大学名誉教授!”の肩書を基に詐欺を重ねる初老の男(中村伸郎)が、刑事に捕まった際に、未練がましく”もう一口だけ・・”と北京ダックを口にする姿。
・妻が瀕死の状態になり、医師、看護婦が看取ろうとする中、幼き子供たちの前で、
”母ちゃん、死ぬな!そうだ、飯を作れ・・!”と言う男(井川比佐氏)に対し、幽霊のような妻(三田和代)がフラフラと起き出し、中華鍋で炒飯を作るシーン。
”できたよ・・”と中華鍋のまま、テーブルに置く妻。
子供達に”食え!”と言う脇で、医者の”ご臨終です・・”と言う言葉。
- シュールだなあ・・。-
<メインストーリーまで書いていくとトンでもない事になるので、この辺で止めるが、
伊丹十三監督が人間の ”食” と ”性” と ”死” は連関しているという考えの基、メインストーリーには ”荒野の用心棒” を思わせる西部劇を絡ませた、傑作。
何度観たか、分からない作品でもある。>
NOBU様
描写の再現力・・・
ありありと目に浮かびます。
映画もすごいですが、NOBU様のレビューも、
なんとリアルに再現されているのでしょう!!!
8作品位録画したのですが、なかなか観る(再見ですが、)時間が
つくれません。ダメですね。