劇場公開日 1978年10月7日

「バカで野蛮で猥雑な生命力に溢れた昭和という時代の娯楽映画の最後の金字塔」ダイナマイトどんどん jin-inuさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0バカで野蛮で猥雑な生命力に溢れた昭和という時代の娯楽映画の最後の金字塔

2025年4月1日
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戦後間もない昭和25年、米軍占領下の北九州戸畑。昔気質の親分、岡谷源蔵(嵐寛寿郎、76)率いる「岡源」組と、橋本伝次郎(金子信雄、55)率いる新興ヤクザ「橋伝」組の抗争は日々激化。自分もヤクザの親分みたいな警察署長(藤岡琢也、48)が和平会議を招集します。「戦後民主主義的」に解決を図るため、北九州の博徒の親睦団体「筑豊侠友会」を立ち上げ、豊楽園球場にて親善野球大会を開催することに。

こうして書いてるだけで極めてアホくさい設定ですが、画像で見ると更にアホくさい(褒めてる)です。大の大人たちががん首揃えてこんなくだらない(褒めてる)映画を必死になって撮って、結果大爆死するというオチまで含めて痛快娯楽映画です。まだポリコレもコンプラもなかった古き良き時代の香りがぷんぷんと漂っており、今の良い子達にはとても見せられません。

本作に入れ込んだあまり、主演の菅原文太は「健さんと勝負や!」とぶち上げ、封切りをわざわざ高倉健主演の角川映画『野性の証明』と同じ1978年10月7日にぶつけたそうです。さらに角川のメディアミックスCM物量大作戦に対抗するため、普段は断るテレビCMにも出演し、チオビタドリンクを片手に「ダイナマイトっ、どんどん!」と叫びまくりました。

で、結果は野性の証明の配給収入21億8000万円(日本配収4位、邦画配収1位)に対し本作は製作費の回収もままならない有り様…。さらにwikipediaの「1978年の日本公開映画」のページにはなぜか本作の記載がありません。wikiにも無視される有り様…。

1978年のわが国の映画配収トップチャートには「スター・ウォーズ」や「未知との遭遇」といった海外SF大作、「007/私を愛したスパイ」、「野性の証明」、「さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち」などが並んでいます。それに比べて本作は古き悪き昭和を振り返るヤクザパロディ映画。菅原文太の気合をもってしても、海外勢や角川軍団やアニメ大作の前には適うはずもありません。映画の中でも外でも、菅原文太はボロボロになりながら奮闘しました。

本作で菅原文太(45)は岡源組のNo.4、暴れ出したら誰も止められない「遠賀川の加助」を熱演。熱血暴れん坊、剽軽男芸者、手のつけられないアナーキー野郎、着流しで殴り込みをかける古き良きヤクザと、シーンごとにあらゆる役柄を見事に演じきります。こんな真似は一本調子の棒演技、高倉健にも鶴田浩二にもできっこありません。

菅原文太以外にも、数々の昭和の名優たちが出演しており、ノリノリで怪演を披露しています。特に二人の親分、嵐寛寿郎と金子信雄のやり取りは日本の至宝といっても過言ではありません。「任侠〜っ!」以外ほとんどセリフのない嵐寛寿郎の設定はバカバカしすぎて大笑いです。嬉しそうに芸者の手をナデナデしてる寛寿郎の顔を見てるだけで笑いを誘われます。さすが明治生れのモテ男はいくつになってもスケベです。

橋伝組No2狡賢い花巻役、怪優岸田森(39)も輝いています。夭折が悔やまれます。菅原文太の敵役、北大路欣也(35)もガチムチです。炭鉱のぼた山で泥だらけになりながらの文太&欣也の殴り合いシーンは、喧嘩を通り越してもう男同士のセックスです。フランキー堺(49)は戦争で障害を負った元プロ野球選手という影のある重要な役柄を好演。にっかつロマンポルノの名女優宮下順子(29)が花と色を添えます。日本映画の火が消えてゆく最後の打ち上げ花火のような本作の輝きと名優たちの演技を、しっかりと目に焼き付ける必要があります。

両軍のチーム名は橋伝カンニバルズ(人食い人種)vs岡源ダイナマイツ。ダイナマイツの背番号は手本引き、掛け声は「ダイナマイトーっ、どんど〜んっ」とどこまでも徹底して頭の悪い設定を貫く岡本監督、さすがです。随所で古き良きヤクザ映画を茶化しまくっています。

で、なんやかんやあって最後はもちろん大乱闘。えんえんと続く乱闘を観客席にぽつんと座った戦争孤児が見つめています。

本作中の最大の胸熱シーン、ついに堪忍袋の緒が切れた加助は仏壇と神棚に手を合わせ、一張羅の着物に着替え、長ドスを手に家を出ます。たった一人でのカチコミです。それを待ち構える盟友、留吉(小島秀哉、44)。そんなことだろうと、留吉も長ドスを手に一人加助を待っていました。二人の後ろ姿には、「負けると分かっていて死地に赴く男の美学」が凝縮されています。多勢に無勢、拳銃vsドス、ユニフォームvs着流し。加助と留吉は敗れた日本であり、橋伝は小狡いアメリカです。そしてやっぱり日本はアメリカにボロボロにやられてしまいます。日本人の「男の美学」へのこだわりこそ戦争に負けた最大の要因だという監督からのメッセージでした。

戦争には負けましたが野球では負けません。WBCに熱中し、大谷翔平の活躍に胸を熱くするわれわれ日本人は、心の奥ではまだ本当に凝りてはいないのかも知れません。

jin-inu
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