「仲代達矢氏のご冥福をお祈りいたします。」切腹 GAJIさんの映画レビュー(感想・評価)
仲代達矢氏のご冥福をお祈りいたします。
2025年11月8日、仲代達矢氏が92歳でお亡くなりになった。
多くの黒澤作品や、初期の代表作とも言える「人間の條件」での文字通り体当たりの演技などで、日本映画界を代表する俳優の一人であることに誰も異論はないだろう。
普段、映画を観る際に演者で選ぶということは殆どない私だが、数少ない例外が彼だ。
数ある彼の出演作の中で一本を選ぶことは困難を要するが、最も衝撃を受けた作品がこの「切腹」だ。2015年NHK BSプレミアムシネマにて初鑑賞
江戸幕府成立からまもない寛永7年、江戸には職を失った浪人が溢れており、武家の江戸屋敷にはそんな浪人が切腹をしたいので庭先を貸してほしいと申し出て、面倒を避けるために幾ばくかの金を渡すという形を変えた物乞いが流行りはじめていた。仲代演じる津雲半四郎と名乗る浪人が井伊家の江戸屋敷を訪ねてくるところから始まる。
登場人物の語る回想で構築されていく倒置的なストーリー構成は、この頃の橋本忍脚本の特徴とも言え、完成の域にある。
従来のいわゆる「殺陣」ではなく、戦国時代の剣術を再現し、撮影には真剣を使っていたと言われる緊張感あふれる決闘シーンは最大の見どころ。
武満徹による琵琶を主体とした劇伴も素晴らしい。
そして仲代の演じる半四郎の家族への優しい目線や、時代に取り残された武士の悲哀と矜持が映画全編を貫いている。
時代劇映画としての私のオールタイムベストである。
仲代達矢氏のご冥福をお祈りして、レビューのくくりとしたい。
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