劇場公開日 1962年9月16日

「【”名門武家の家老と困窮した下級武士の夫々の武士の面目。”今作は、武家社会の愚かしき見栄と、貧しくとも誇りを保つ武士道の在り方をシニカルな視点で描いた社会派時代劇である。】」切腹 NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5 【”名門武家の家老と困窮した下級武士の夫々の武士の面目。”今作は、武家社会の愚かしき見栄と、貧しくとも誇りを保つ武士道の在り方をシニカルな視点で描いた社会派時代劇である。】

2025年8月3日
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■井伊家の上屋敷に千々岩求女という浪人が決死の表情で現れ、「切腹のためにお庭を拝借したい」と申し出る。
 これを、世に流行る食い詰め浪人が金品をせしめるための所業と思った井伊藩の家老・斎藤勘解由(三國連太郎)は、望み通りに腹を切らせようとするが、求女は実は妻美保(岩下志麻)と、子の病を治すため困窮の果てにやって来たのであった。
 だが、その事情を知らせる訳にも行かず、真剣はとうの昔に売り払っていたがために、竹光で求女は井伊藩の武士たちが見守る中、無念の死を遂げるのである。
 その後、津雲半四郎(仲代達矢)という浪人が現れ、同じく「切腹のためにお庭を拝借したい」と申し出る。そして半四郎は、且つて井伊藩の屋敷で死した求女は自分の娘婿であると告げるのである。

◆感想<Caution!内容に触れています。>

・物凄いシニカルな、武家社会の愚かしき見栄と、貧しくとも誇りを保つ武士道の在り方を見事な視点で描いた作品である。

・序盤は千々岩求女の申し出に対し、非情にも竹光で腹を切らせる沢潟彦九郎(丹波哲郎)の姿と、それを看過する斎藤勘解由の姿と、無念の死を遂げた求女の死骸を、津雲半四郎、娘であり妻の美保が待つあばら家に届けた際の、彦九郎、矢崎隼人、川辺右馬介の嘲りの笑いに対し、美保が泣きながら遺骸に取りつき、津雲半四郎は憎悪の表情で三人を見送る姿が物凄い。

・そして、冒頭、斎藤勘解由の屋敷に憎しみで目をぎらつかせた津雲半四郎が現れ、切腹を申し出るシーン。斎藤勘解由は、千々岩求女の件で嫌な思いをしているが故に、同じように斎藤勘解由に対し千々岩求女と同じく中庭での切腹を申し付ける。
 その際に、津雲半四郎が介錯人に矢崎隼人、川辺右馬介、そして沢潟彦九郎を指名するが、三名とも病気を理由に出て来ない。
 すると、津雲半四郎は嗤いながら懐から三人の髷を投げだすのである。そして、三人と津雲半四郎との対決シーンが流れるのである。

・全てを察した斎藤勘解由は、家臣たちに津雲半四郎を切り捨てる様に命じるが、剣の達人津雲半四郎は、家臣たちを次々に鬼の形相で切り倒し、最後は斎藤勘解由の家宝である甲冑を投げ捨て、刀ではなく鉄砲隊に打ち取られるのである。

■ここからの、斎藤勘解由の”武士の面目”を保つために家臣に出した指示も凄いのである。腹を切った沢潟彦九郎と同じく、蟄居している矢崎隼人、川辺右馬介にも腹を切るように命じさせつつ、彼らの死は”病死”とし、更に津雲半四郎に切り捨てられた家臣たちの死も、”病死”とせよ、と指示を出すのである。

<今作は、武家社会の愚かしき見栄と、貧しくとも誇りを保つ武士道の在り方を見事な視点で描いた社会派時代劇なのである。
 娘婿の仇を取るために単身斎藤勘解由の屋敷に乗り込んだ津雲半四郎を演じた仲代達矢のギラツイタ眼と、武士の面目を保つために脂汗をかきながら、冷酷な指示を出す斎藤勘解由を演じた若き三國連太郎の何処か怯えた表情も凄き作品である。>

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