「砂のプライド」切腹 everglazeさんの映画レビュー(感想・評価)
砂のプライド
誇り高きあるべき武士故の苦労が伝わる作品でした。
内職と寺子屋でやりくりしてきた貧しい浪人生活。武士たる者物乞い等もってのほかと思いつつも、背に腹はかえられず、武士の魂である刀を質入れし、潤沢な藩の情け心に何とか訴える手段に出る主人公の婿。彼は自分の誇りよりも、床に伏す妻と乳呑み子の命を選びました。そんな婿の心情を知るまでは、主人公自身も、生まれたばかりの孫に武士の心意気を言いながらあやしたり、帯刀し続けたりしています。婿の変わり果てた姿を前に、武士の誇りも命あってこそなのだと気付かされたのでしょう。
婿の事情を知らされるタイミングが、井伊家と観客同時進行なので、こちらもそれまでどんな目で、彼の武士としての立ち振る舞いを見ていたかに気付かされます。
勇ましく命を捨てることを美意識とし、戦前まで声高らかに叫ばれていた精神論に疑問を投げかける作品です。嘘で塗り固めた面子を保つことに何の意味があるのか。何よりも人間らしく生き抜くことが大切なのだという点は、いつの時代にも通じると思います。
鬼気迫るサスペンス時代劇といった感じで引き込まれました。終盤の殺陣は、いかにも昭和のチャンバラで、必殺技ポーズ?さえなければなぁと思いました。最初から唯一情け深かった側近だけ、斬り合いを見事免れていました。
でも字幕がないと全く聴き取れず2回観ました。
everglaze様のレビュー、大いに参考になります。視点と言語化が素晴らしく、唸りながら読ませていただきました。
> 主人公自身も、生まれたばかりの孫に武士の心意気を言いながらあやしたり、帯刀し続けたりしています。婿の変わり果てた姿を前に、武士の誇りも命あってこそなのだと気付かされたのでしょう。
あの「あやし」も布石。そう言われれば!