劇場公開日 1968年1月15日

爽春(1968)のレビュー・感想・評価

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5.0「松竹の女性映画の名匠中村登監督と原作が山口瞳。傑作だが近年の視点で見ると・・・」

2023年7月28日
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鑑賞方法:映画館

三十代を迎えながらも父親と二人暮らしの娘由利子と五人家族の長女で大学生の亜矢子の結婚と顛末を描く。 主演の由利子を岩下志麻と父親の安藤を山形勲か演じて、妻に先立たれて娘との二人暮らしが、長くなってまるで歳の離れた夫婦になってきた親子関係が絶妙に良い。 大学生の亜矢子を自分の世代だと『欽ドン!良い子悪い子普通の子』のOLコントの良いOL役が有名な生田悦子。 以前、寅さんになる前の渥美清主演の犯罪喜劇「白昼堂々」(1968年)の端役だが、不良ぽい女スリ役が、印象的だったが今作では、吉永小百合に似た雰囲気だが、活発な女子大生を演じて可愛い。 家から辞典を盗もうする弟をやり込める場面や後に結婚する竹脇無我(若い!軽い!)との会社でのやり取りも可笑しくて後の欽ドン!でのコメディエンヌぶりを予感させる。 余談だが映画評論家の田山力哉の著作『伴淳三郎 道化の涙』を読んだら、彼女は当時、野村芳太郎監督に気に入られている事を吹聴していたら、それが元で、伴淳三郎にかなりイビられたらしい。 松竹の女性映画の名匠中村登監督と名脚本家の松山善三なので、標準以上の出来栄えで傑作だが、近年の視点で見ると、恋人と父親が、口論の末に娘を殴るところを、肯定している雰囲気がとても違和感。 昔のドラマでは良くあったのだが、そこで殴るか?と、どうして気にかかるので山口瞳原作の短編集『結婚しません』を探して収録されている映画の元となった一編「黄色い雨傘」を読んでみたところ原作に忠実に脚色してある事が分かる。 その場面は、ロンドンに三年間単身赴任する恋人の緒方に、三年は待てないと、言い張る由利子とその経緯を見守る父親の安藤そして 以下原作引用 【こんどは由利子が泣き出した。 緒方「じゃあ、どうする?」 由利子「だから、別れましょうよ。そのほうが、あなたにもいいし、私にもいい」 緒方「私にもいい?」 緒方は、安藤(由利子の父親)の目の前で由利子を殴った。その気持ちは安藤にも素直に通じて、むしろ有難いくらいだった。】 えー!父親が娘を目の前で、殴られるのを肯定するのか・・唖然! この後に由利子は、不倫関係になった緒方との関係などを問われ、激怒した父親から殴られるのは脚本オリジナルで構成的には由利子の葛藤や物悲しさを際立たせるのに有効だが。 いま視点で見ると引っかかるところもあるが、短編補う為に脚色された部分の二組の家族の対比やそれぞれの家長で親友でもある山形勲と有島一郎の飲み屋でのやり取りのおかしさや、有島一郎の奥さんの森光子の達者振りもあり、演出のテンポや撮影もソツがなく全体的には、とても楽しめます。

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