劇場公開日 1981年12月19日

「単なるアイドル映画ではない、大いに実験的で野心的な演出で、今でも語りつがれる理由も納得です。」セーラー服と機関銃 矢萩久登さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0単なるアイドル映画ではない、大いに実験的で野心的な演出で、今でも語りつがれる理由も納得です。

2025年5月17日
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鑑賞方法:映画館

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惜しまれつつ25年7月27日に閉館する「丸の内TOEI」さんにて「さよなら丸の内TOEI」プロジェクトがスタート。同館ゆかりの名作80作品以上の特集上映中。
今週は角川映画特集。
『セーラー服と機関銃』『時をかける少女』の豪華2本だて。

『セーラー服と機関銃』(1981年/112分)
ご存じ薬師丸ひろ子氏が一躍国民的トップスターへ駆け上がった代表作。
監督は相米慎二氏、薬師丸氏とは監督デビュー作『翔んだカップル』(1980)以来2度目のタッグ。
すでに何度も鑑賞してますが鑑賞するたびに新たな発見がありますね。
いわゆる主演アイドルの笑顔のアップがバンバン多用される【アイドル映画】ではなく、ひたすら望遠のロングショットと、ほぼすべてのシーンがワンカットの長回しで圧巻。
ほとんど寄りのアップショットがなく、あまつさえ移動ショットでは樹木がキャストに被ってしまうほど。
通常なら「ここで切り返してアップ」が定石のシーンでもロングの長回しで、脇の目高組トリオや柳沢慎吾氏、光石研氏が演じる高校生トリオはほとんどアップがなく最後まで個々の判別がつかずですが、その徹底ぶりは芸術の域。特に地蔵菩薩から暴走族と遭遇、バイクを借りて新宿通りを疾走するシーンは5分近くのシーンは壮観ですね。
単なるアイドル映画ではない、大いに実験的で野心的な演出で、今でも語りつがれる理由も納得です。本作での長回しの試行錯誤が『ションベンライダー』(1983)、そして『台風クラブ』(1985)と洗練されていきますね。

薬師丸氏も前作『翔んだカップル』で監督と気心が知れていたのか、監督の意図する演出に忠実でしたね。逆にアップのシーンが少ないので、佐久間真(演:渡瀬恒彦氏)との別れのキスのシーンなどがより強く印象に残ります。

クライマックスの機関銃を撃つシーンは、ヘロインを溶かして隠した瓶の破片が、薬師丸氏の頬に直撃、実際に流血しているのですがカットせず続行、OKテイクにしたのは、スローモーションシーン、流行語にもなった「カ・イ・カ・ン」のセリフともあいまって映画史に残る軌跡のシーンになりましたね。

ラスト。
目高組の仲間全員と別れ、元の女子高生に戻った泉が、新宿東口の歩行者天国でセーラー服姿に赤い口紅と赤いヒールを履いて、マリリン・モンローのようにスカートをひらめかす長回しに、本人歌唱の「セーラー服と機関銃」が流れるエンディングは、薬師丸ひろ子氏の神々しい魅力と歌声で、何度観てもグッと来ますね。

矢萩久登
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