スローなブギにしてくれのレビュー・感想・評価
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藤田敏八監督の40年前の予言のとおりになったのだ
冒頭は首都高の竹芝、浜松町から芝公園にかけて
さち乃がムスタングから放り出されるのは第三京浜
懐かしい光景だ
さち乃の家は、横浜の黄金町
あの頃は、怖くてそうそう近寄れなかったところ
団塊世代よりも下の世代の自分にとっては、こんな腹の立つ映画も久しぶりだった
若者が無軌道で傷つけあう
そんなことは昔から今もそうだし、こらからもそうだ
それが若者だ
なんで団塊おやじが、若者の恋愛に絡んでくるのだ
藤田敏八監督も、脚本の内田栄一も戦前の1930年代の生まれ
戦後生まれの団塊世代を客観的に見ている世代だ
本作は「八月の濡れた砂」のちょうど10年後の作品だ
その団塊世代が10年後どうなっているのかを批判的な視線で描こうとした映画だと思う
それは団塊世代が、大人に成ることを拒否して好き勝手な生き方をこれからもそうしていこうしていること
そのためには、若い世代を食い物にしていること
それを告発している映画が本作なのだ
まともなのは、団塊世代であっても苦労して厳しい世間を渡って来たであろうスナックのマスターとその常連逹だけだ
1981年、団塊世代は三十半ばになったところ
もう若者では無くなっている
中年に片足どころか両足突っ込んでいるのだ
もう大人になるべき歳だ
そこを団塊世代自身に見た目で分からせるように、1930年代生まれの藤田敏八監督と同じ上の世代の役者を使っている
監督は当時49歳
女性だけは、それでは映像ではキツいから敬子役の浅野裕子だけは団塊世代の下限1952年生まれを使っている
その彼女でも今年2022年なら70歳だ
もう中年なのにいつまでも若さにしがみついて足掻いている
ひとりで足掻いているならいい、若者を食い物にするな!
道連れに若者まで殺そうなんてするな!
そんな腹立ちが、監督のメッセージだったと思う
団塊世代より下の世代の自分に取っても、彼らの手前勝手な振る舞いの不愉快な記憶がフラッシュバックしてしまった
片桐義男のセンスの良い原作小説の若者逹の物語に、勝手に団塊世代を無理やりわりこませてくるのはそれが目的だったと思う
不潔で卑劣で汚らしいのは誰だ?
それを若者達は知るべきだ
利用されるなと本作は警告していたのだ
本作は予言していたのだ
本作公開から20年後
ムスタングの男が育てる気の無い赤ん坊は、成長すれば氷河期世代になる子供だ
その子を育てるために、この団塊世代の母親は、下の世代の妹に育児を押し付けるのだ
本作公開から30年後
劇中に離婚が成立した妻との娘は、おそらく1973年頃の生まれだ
つまりは団塊ジュニア世代なのだ
これも捨てられたようで、その実捨てたのだ
2022年の現在、どちらの子供も40歳代の前半と後半になっているだろう
非正規のまま、結婚もできず、故に家族も子供もなく、年金もなく、初老に入ろうとしているのだ
本作は、団塊世代が好き放題に生きた結果、如何にむちゃくちゃになってしまったのかを描いているのだ
その上、責任を放り出しだしてそのツケを下の世代に回しいたのかも
そうして自分たちの子供世代を食い物にして、自分逹の老後を優先するであろうことまでも予言していたのだ
失われた世代は、彼等団塊世代が作ったのだ
ロストジェネレーションはもっと怒るべきだ
本当に腹が立つ
団塊世代はもう75歳になった頃
社会からリタイアしたはず
ところが、現実にはまだまだ金や権力や権限をもっているのだ
もう若者を食い物にしないでくれ!
自分達の孫世代まで食い物にすることはないだろう
終盤のさち乃が、家主のいなくなった米軍ハウスで家財の破壊をつくすシーンには喝采だ
腐ったトマトなんか壁にぶつけてしまえ!
反吐がでる
南佳孝の主題歌はそのあとにかかる
それだけがご機嫌だ
原作小説は、野生時代という角川書店の月刊誌に1975年に掲載されたもの
主題歌は1981年1月の発売
片桐義男の原作小説の雰囲気に合っているが、本作の映画の内容とは遊離している
もちろん南佳孝の責任ではない
本当は若者達だけの物語ならば、ピッタリの曲であったはずなのだから
さち乃とゴローはそれなりに家庭をもってまっとうに暮らそうとしている
二人の子供もまた氷河期世代の生まれだ
その子の将来の不安を予感したかのように、さち乃は大きな腹に痛みを感じてへたり込んでしまうのだ
ラストは団塊世代のムスタングの男は、若い女と心中しようとして一人だけ生き残る
死んだのは見知らぬ若い女性
若者を犠牲にしたのだ
猫を捨てるのとおなじ感覚なのだ
この男はニュースカメラマンに撮影されたとき、手を上げて降参したふりをするのだ
なんと卑怯なのだろう
それが本作の結末であり結論なのだ
藤田敏八監督の視線はなんと辛辣なのだろう!
団塊世代はついに人生から退場しようとしている
しかし、このムスタングの男のように、まだまだ若者を道連れにしようと狙っているように思えてならないのだ
藤田敏八監督の40年前の予言のとおりになったのだ
けっこうよかった
公開当時から気にしていて見ていなかったのをようやく見た。あんまり面白くなさそうな雰囲気だけの映画のような先入観があったのだが、とても面白かった。米軍基地の横の住宅で、甲冑や豪華なオーディオなど『限りなく透明に近いブルー』のイメージで、冷蔵庫のものが腐る場面まであった。
おじさんが女子高生に迫るのはパワハラ的で引く。猫の扱いがひどすぎる。登場人物がクズばかりで、しかも自分を正統化するタイプのクズ。そんなクズ連中が雑に生活して互いに傷つけあい、もたれ合うのが生々しくてすごくよかった。
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