砂の女のレビュー・感想・評価
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本当に真摯な映画化作品
石井岳龍による『箱男』が製作されていることもあってか、新文芸坐で本作がかかっていたので鑑賞。
率直に、真摯な映画化作品だったと感じた。原作の閉塞感やテクスチャが上手い具合に映像に落とし込まれている。高低差のある砂の崖をちゃんと用意したり、家屋の内部まで砂を敷き詰めたりと、原作にあった砂の鬱陶しさをきちんと再現していたのが偉い。
特に感心したのは、原作同様に隣家の様子を一切描かなかったことだ。原作は隣家の存在を示唆しつつもそれを一切描かないことによって寓話としての浮遊性を獲得していた。本作もまたそこに無駄な差し引きをしておらず、寓話としての原作の強度を継承できていた。
また脚本にも過不足がなく、数年前に読んだ原作の内容をはっきりと思い出すことができた。万物が機能に還元されてしまう砂の集落に放り込まれた男の苦悩を通じて、現実世界もまた曖昧な社会システムによってかろうじて個人なるフィクションが担保されているだけの虚構世界であることを喝破してみせた安部公房の文学的手捌きにただただ圧倒される。
とはいえ本作は「真摯な映画化作品」であっても映画としてはそこまで傑出していない。昆虫や肉体を接写することで生物の持つグロテスクな側面を誇張するような映像表現は半世紀以上前にルイス・ブニュエルが散々試みていたことだし、意味があるとは思えないところで手持ちカメラを使っているのも興を削ぐ。覗かれた穴側からのフレーミングや太鼓の鼓動による焦燥感の表現なども言いたかないけど凡庸だ。
勅使河原宏の映画を観るのは本作が初だが、どうにもセンスだけで撮っているような感が否めない。無論、上記のような諸演出を思いつくことができるのは彼の卓越したセンスゆえだとは思うが、百余年を数える映画史の前で臆面もなくそれを誇示できるのはいささか傲慢なのではないか。
ただ、繰り返すようだが映像の完成度と原作の再現性という点においては本作は非常に優れている。映画史とかどうでもいいよ!という方には普通に自信を持って勧められる一作だ。
人間の個としての独立 人間社会の個の封じ込めと個の埋没 その不条理 それでは陳腐かもしれません でもそうとしか表現出来ません
人間は犬じゃない
鎖をつなぐわけにはいかないよ
1964年公開、白黒作品
原作は安部公房の1962年の小説
川端康成の次に日本人でノーベル文学賞をとるのは彼であろうと目された作家でした
作風は本当に難解
本作と同じく何が何だか皆目わからない
本作はその原作が難解そのまま映像となっていて、その難解さを忠実に映画化したと言えます
なぜなのか訳もわからず蟻地獄のようなところに閉じ込められ生活することを強要される物語
逃げようとするのだがどう足掻いても逃げられない
家庭生活というものはそんなものだ
文字通り砂を噛むような単調な毎日
そこから逃げて出そうとしてもどうにもならない
いつしかあきらめてそこに安住している自分を発見する
単にそのような底の浅い物語のようにも思える
しかし、その程度の幼稚な内容ではないし、そんなものを書くような原作者ではないともわかっている
ところで
プリズナーNo.6というイギリスのテレビドラマをあなたはご存知でしょうか?
伝説のカルト作品です
日本では最初1969年にNHKで放送されました
以後民放などアチコチで再放送されました
放映当時まだ子供でしたが、訳も分からないくせに何かしらとても惹きつけられて夜遅い時間帯なのに夢中で毎回視ていました
本作はそれと似ています
あるいはジョージ・オーウェル「1984年」にも似ているかも知れない
その「プリズナーNo.6」は一見、スパイもの
辞表を上司に叩きつけたばかりの元イギリス情報局員が拉致されて、外界から隔離された不思議な村に閉じ込められ何故辞めたのかをしきりに問われるが主人公は絶対に口を割らず、毎回隙を見て村からの脱出を試みるという物語
これも東西冷戦を背景にした共産圏の管理社会の当てこすりのようで、そんな程度のそこの浅いものではなかったのです
人間の個としての独立
人間社会の個の封じ込めと個の埋没
その不条理
簡単に言えばそんなところなのでしょうか?
それでは陳腐かもしれません
でもそうとしか表現出来ません
プリズナ-No.6はそこに安住するならば快適な村
砂の女の家は、絶えず不快な砂まみれ
表裏一体です
本作もそういう作品なのだと思います
海辺の貧しい村の住民に捕らわれた昆虫学者の運命とは⁉
これは私の母国(日本)の映画だが、あまり好きではない。砂の世界を長時間さまようという映像体験は、見ていて不愉快です。そもそも安部公房の原作はそれほど良いものではないが、海外では高く評価されている。とはいえ、この映画もいいところがないわけではない。ただ、不要な砂地獄の映像体験が、果たして、同じシュルレアリスム映画「イレイザーヘッド」と比較した場合、同質のものであるかは疑問である。とはいえ、自国の映画が高く評価されるのは嬉しいことだ。
人間の根源的な生命力を特殊な環境で描き切った日本映画の力作、その驚嘆と圧倒
観念的で幻想的で閉塞的で脅迫的で実に興味深い映画の力作。突然遭遇した特異な環境で、あらゆる生命力を発する人間のしぶとさと美しさと醜さ。原作の寓話の世界を見事に映像化している。このような映画は世界の他の国では作られないであろうし、作られていても日本公開されないであろう。正に唯一無二の存在感。蟻地獄のような世界観で物語が語られる特殊さに唖然としながら圧倒されてしまった。殆ど主演ふたりだけの登場人物で、岸田今日子の不思議な魅力と個性が主人公に適格すぎて、これも高評価の要因に挙げられる。
1976年 6月26日 フィルムセンター
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