劇場公開日 2005年6月18日

「日本人の魂を揺さぶる名作」砂の器 あんちゃんさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0 日本人の魂を揺さぶる名作

2025年7月6日
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鑑賞方法:映画館

喰わず嫌いで今まで観ていなかった。観終わった今、その不明を恥じている。
喰わず嫌いは70年代の日本のメジャー映画会社の大作主義と、その出来の悪さに由来する。
ただ、この作品は、松本清張の原作、橋本忍の脚本、野村芳太郎の演出が上手く噛み合って奇跡のような作品に仕上がっている。例えば、同じ橋本忍の脚本である「八甲田山」(演出は森谷司郎)は予定調和的な筋運び、頻回挿入される四季の風景のカットなどが観客を辟易させるのだがそういうところがこの映画にはない。最大の見せどころというか、もっともエモーショナルなシーンは父と子の旅なのだと思うが最終段階まで挿入されない。実はこの映画の四分の三くらいは丹波哲郎演じる今西刑事の捜査で占められている。今西は淡々と、でも粘っこく、時には楽しそうに、全国を飛び回って事件のアウトラインを浮かび上がらせていく。そして、今西がすべての状況証拠を固め終わり、真実を捜査会議の席上で披露するにいたって、20年に渡る父と子の物語、宿命が、堰を切ったように一気に我々の目にも触れる。
それは、父と子がお互いをかばい合って美しいが厳しい日本の風景の中を彷徨い歩き、遂には力尽きて別れ別れになるまでの物語である。そして再び会うことは叶わず、そればかりか二人の過去が他人を殺めることに繋がる哀しい物語である。和賀英良がピアノ協奏曲として奏でる「宿命」に乗って語られるこれらの物語は何か心の奥底を揺さぶられるような感覚を受ける。恐らく、こういった道行きの悲劇に感応するDNAが組み込まれているのであろう。
今、これを映画化すれば、フラッシュバックやカットバックを使い父と子のシーンを早めに見せてしまうと思う。それを敢えてせず「ためてためて」一気に最後に見せた脚本と演出の冴え、そして前半部をそれでももたせた丹波哲郎の演技力に感服する。

あんちゃん
トミーさんのコメント
2025年7月14日

コメントありがとうございます。
そうなんですね!寅と御前様の存在感凄かったですね、捜査会議にも・・。

トミー
トミーさんのコメント
2025年7月14日

休みの日も捜査活動に打ち込む今西刑事、現在なら家庭は?とか必ず出て来そうですがバッサリ、刑事としての描写だけで潔いですね、猟犬デカも。

トミー
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