「「宿命」に集約される情感的作品」砂の器 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)
「宿命」に集約される情感的作品
丸の内TOEIで開催中の『昭和100年映画祭 あの感動をもう一度』企画の3本目。本作は配信で観たことがあるものの、劇場では初めての鑑賞でした。
一応刑事物、推理物に分類されるものの、主題は犯人である和賀英良(加藤剛)の人生そのもの。そして彼が作曲した「宿命」という曲が、自らのピアノとオーケストラで演奏される調べに乗って流れる回想シーンこそが見所中の見所でした。「宿命」は、本作の中心に常に存在しており、やはり劇場で味わうにひと味もふた味も違いました。
一方、推理物として観ると、前半部の今西刑事(丹波哲郎)らによる日本中を歩き回る捜査は中々結実せず、後半になって犯人が特定されて逮捕状が発行されて行く過程はかなり省略されている感がありました。捜査会議で和賀英良の人生を振り返り涙する今西刑事の姿は、こちらにも涙を誘うものであり、またこの演出により、映画としてのテンポは担保されているものの、推理物としてはちょっと不完全燃焼に思えなくもありませんでした。
それにしても俳優陣は超豪華であり、また野村芳太郎監督、橋本忍と山田洋治の脚本、さらには原作が松本清張と、隅から隅までオールスターで作られており、ややもすれば船頭多くしてとなるところを、きちんと統合された作品に仕上げた野村監督の手腕は流石と感じざるを得ませんでした。
あとちょっと気になったのが、終盤の捜査会議で、刑事部長らしい人が「順風満帆」を「じゅんぷうまんぽ」と読んだこと。ん?これって誤読じゃないのかしらと思ってググったところ、この「じゅんぷうまんぽ」問題は結構有名なようで、いろいろなコメントが確認できました。結論とすると、映画制作当時は「じゅんぷうまんぽ」という読みも容認されていたようで、「じゅんぷうまんぱん」が正しいとされるようになったのは最近のことであるらしいとのことでした。これは意外なお話でした。
そんな訳で、本作の評価は★4.6とします。