「エネルギッシュな昭和の風情とその影の魅力」砂の器 まりもさんの映画レビュー(感想・評価)
エネルギッシュな昭和の風情とその影の魅力
先日羽後亀田を訪れ、中学の頃父とDVDを見たのを思い出してAmazonプライムでレンタル視聴した。デジタルリマスター版の配信は嬉しい。
日本のさまざまな地域の鉄道の風景、田舎の様子を一本で味わえる、映像作品としてもとっても魅力的な作品だと思う。喫茶店で溶けたアイスクリームを啜るところが特に好きだ。
中学の頃見た時は、千代吉が会いたがっていた秀夫の写真を見て涙しつつも知らないと語った姿に、なにか感じるものはありつつも理解できなかった。
今回、多少成長してから視聴して、感想が大きく変わったので記しておきたい。
二人で過酷な旅をする中差別を受けた二人だけの共有する思いがあること、立派に大成した風の息子を病人の父がいるということで足を引っ張りたくない父心のようなもの、会いたいけれど会いたくない、そんな思いなのかもしれないと感じた。
三木はまごうことなき善人だけれど、良い人であるが故に、会いたいけれど会っては行けない、会いたいけれど会うわけにはいかないと心の奥底で理解してしまっている両者を会わせようとしてしまった。
元は決して悪い人ではないはずの三者が、被差別という体験を経て喜びの再会にすら萎縮し、善意に殺意を返してしまう差別のひっそりとした恐ろしさ。やるせない涙してしまう人間ドラマの根底に這わせられている、差別がなぜいけないか、それが解消された後も、人は生きていくという事実に行き当たったような感じがした。
また、ジェンダーなど、多少なりとも男性・女性間の認識のギャップや、父・母といった役割に意識を向けるようになった現代からみると、辛い経験のあるはずの秀夫もまた理恵子をその経験故か加害してしまう姿に、鋭い批判を感じた。男性から女性、あるいは子から母へ向かう無理解さ、経験の無さが秀夫の加害の根源とも思うが完全に善良な人も、完全に被害者の人も、完全に加害者の人も、この世にいないのだと肝に銘じたい。
また歳をとってから見返したい作品。