「なぜ殺したのか?」砂の器 megurimeguさんの映画レビュー(感想・評価)
なぜ殺したのか?
国立療養所に入ってから24年間、
息子にひと目会いたいというただ1点を望んでいたという加藤嘉が、
立派に成長した息子の写真を見せられたときの慟哭、
全身を震わせ「そんな人、知らねぇ!」と言い放つシーンは、
父子の放浪シーンの美しさ、悲しさ以上に心に残った。
どんなことがあっても絶対に手放したくなかった息子と
最終的に分かれる決心をしたのは、緒形拳から言われた
「秀夫の将来はどうなるんだ?」というひと言であったと思う。
そのときの、ハッとした加藤嘉の表情。
そこには、満足のいく養育はできないという意味に加えて、
ハンセン病患者の息子という業を背負わせたままでいいのか、
という意味があったのだと想像する。それで父は息子を手放した。
息子もそれを分かっていたのではないかなぁ。
だから緒形拳の家から唇を噛み締めて逃げた。
あそこにいたら「ハンセン病患者の息子」のままだから。
父に報いるためにも、それまでの人生を絶対に絶対に
捨てる決意をしたのではないか。
で、24年後。なぜ恩人である緒形拳を殺したのか。
しらばっくれたらよかったじゃない?
単にわが身がかわいい、利己的なヤツじゃない?
いやいやいやいや、そうではなく。
自分は何が何でも別人として生きなければならない、
つまりは、
「ハンセン病患者の息子」であってはならなかったのかなと思う。
父と息子の互いへの愛、思いとともに
映像では語りきれないほど当時の社会にあった
ハンセン病への壮絶な差別を想起させる。
以上、心揺さぶられる加藤嘉の名演より想像。
残念ながら加藤剛の演技からは特に何も感じられず。
緒形拳すばらしい。
渥美清、笠智衆、菅井きん、圧倒的存在感。
夏純子のホステス、春川ますみの女中も地味に深く心に残る。
主役?の刑事2人の演技には目をつむるしかない。
あれこそが丹波哲朗の味なのかもしれないが私には合わないかな。