「フランス映画の名作巴里祭のラストシーンを思わせる味のある終わりかたでした」洲崎パラダイス 赤信号 あき240さんの映画レビュー(感想・評価)
フランス映画の名作巴里祭のラストシーンを思わせる味のある終わりかたでした
洲崎パラダイス
冒頭の橋は永代橋の北側
都バスに乗って降りたところは洲崎弁天町
おそらく今の永代通りの東陽三丁目交差点ではないでしょうか
地下鉄東西線の木場と東陽町の丁度真ん中あたり
地下鉄が出来るのはこの11年後になります
川向こうが赤線地帯(公認売春地域)のある洲崎パラダイス
その川は今はなく埋められたのか、暗渠になったのか、緑豊かな遊歩道になっています
だからもう橋は有りません
遊歩道の右手に洲崎橋跡地の小さな記念碑があります
飲み屋の千草はその辺りかと思います
義治が出前をする蕎麦屋はおそらく洲崎神社の近くですから、今の地下鉄木場駅辺りにあったと思います
洲崎神社が蔦枝達がお参りする弁天様で、終盤で殺人事件が起こる所です
洲崎パラダイスのネオンが光るゲートアーチは当然今は跡形も有りません
60年以上前の秋葉原の光景も今では貴重です
本作は1956年7月末の公開
この年5月に売春禁止法が可決、本作の翌年4月1日からの施行を控えた中の公開な訳です
赤線地帯の娼婦達が身の振り方を考えていた時期というわけです
その辺の事情は溝口監督の赤線地帯という作品に詳しいです
なのでもう赤線地帯での仕事は赤信号というわけです
二人は冒頭で洲崎弁天町でバスを降りて、永代通りを渡り、洲崎橋を渡りかけるのですが、まるで赤信号でもあるかのように渡れずに橋のたもとの飲み屋千草に入るのです
今の洲崎パラダイス跡は普通の商店街と住宅街
一本大通りから中に入った昔の民家にタイル貼りが希に残っているくらいの微かな痕跡を残すのみです
土地の由緒を知らなければここが赤線地帯であったことは気づくことも無いでしょう
大門通りの左手に美味しいと有名なタンメン屋がありよく通ったものですがそれも一昔前のことになりました
新珠三千代26歳
顔が小さいです、体の線が細いです
宝塚出身の清く正しいという空気は断ち切られています
夜の商売の女だという風情が見事に匂い立っています
初々しい芦川いずみの玉子との対比が効いています
千草の女将さんの轟夕起子が素晴らしい演技を見せています
行方不明の亭主が戻っていたときに見せる女の顔は見事です
そして家族で浅草から帰ってきたときの幸せそうに化粧した顔、そして女の戦いに勝ったという笑み
これがクライマックスの伏線に大きな効果を上げています
この三人の女が、赤線地帯を取り巻く女は、こうして、こうなって、最後にはこうなってしまうということを象徴しているのです
ラストシーンはまたまた永代橋でバスにのるのです
駄目な男とだらしない女の堂々巡りはだらだらと果てしなく続くのです
このような物語は毎日あって繰り返されるのだとカメラは高く永代通りを東陽町方面を俯瞰するのです
フランス映画の名作巴里祭のラストシーンを思わせる味のある終わりかたでした
余韻が心地よいものです
所詮男と女はだらしなく楽な関係が心地良いのです
しかし赤線地帯の廃止は決まっており、蔦枝は娼婦には戻れないのです
二人は洲崎弁天町で今度は降りず、その先まで乗っていくのでしょう
今度はかたぎになれるのかも知れません
そんな思いが明るく快い余韻になっているのでしょう