「本作で描かれるスーパーの裏側のエピソードがどれも予言的。まるで予見していたかのような緻密な取材力に仰天です。」スーパーの女 矢萩久登さんの映画レビュー(感想・評価)
本作で描かれるスーパーの裏側のエピソードがどれも予言的。まるで予見していたかのような緻密な取材力に仰天です。
2月21日(金)からTOHOシネマズ日比谷さんで開催されている「日本映画専門チャンネル presents 伊丹十三 4K映画祭」(監督作品を毎週1作品、計10作品上映)もいよいよ残り2作品。本日は『スーパーの女』(1996)。
『スーパーの女』(1996/127分)
『大病人』(1993)『静かな生活』(1995)の前二作が作家性に富む作品でしたが、本作では『マルサの女』(1987)『ミンボーの女』(1992)に連なる現代社会の問題点を描く「女シリーズ」が完全復活。
公開はバブル経済が完全に崩壊した1996年。
世間がバブルの狂乱から急転、低価格志向に一気に関心が向く中、身近な「(食品)スーパー」をテーマに選んだ点はいつも通り監督の鋭い見識は流石です。
おかっぱ頭のスーパー大好き主婦・井上花子(演:宮本信子氏)と花子の幼なじみで崖っぷちのスーパー「正直屋」専務・小林五郎(演:津川雅彦氏)の掛け合いはいつもの「女シリーズ」同様、陽気でサバサバした女性がダメな男たちを𠮟咤激励して繁盛店に導く痛快な娯楽作に仕上がってますが、本作で描かれるスーパーの裏側のエピソードがどれも予言的。
実際に賞味期限偽装(リパック)は2000年の雪印集団食中毒事件、2007年の赤福餅や船場吉兆、さらに食肉偽装は2007年の牛肉ミンチ偽装事件(ミートホープ事件)など続々発覚、大きな社会問題になりましたが、それら事件をまるで予見していたかのような緻密な取材力に仰天です。
業界の裏側を暴くシリアスで知的好奇心を刺激する内容を軽やかに極上なエンターテイメント作品に昇華させれるのが伊丹監督作品の醍醐味ですね。
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