「『スピード』よりも『新感染』よりも速かった!」新幹線大爆破(1975) 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
『スピード』よりも『新感染』よりも速かった!
東京~博多間を走る新幹線に爆弾が仕掛けられた!
時速80キロ以下になると爆発する!
犯人と警察のスリリングな駆け引き、血眼になって事態の対応に奔走する国鉄、乗客の命は…!?
堂々たる日本映画史上屈指の傑作パニック・アクション超大作!
この作品も昔から何度か見ているが、本当に面白い! 主演の高倉健も脚本の面白さに惚れ込んでどんな役でもいいから出演を熱望したとか。
しかしながら当時は興行的には期待外れだったのが信じられない。
が、その後海外でヒットし、多くの作品に影響を。2005年の『交渉人 真下正義』は言うまでもなく、ハリウッドのあの80キロ以下になったらバスが爆発するアクション映画にも影響与えたとか否とか。
面白さは話のシンプルさにあると思う。
本当に分かり易く、要所要所見せ場もたっぷり。
分岐点で他の車両とあわやニアミス! クライマックスになるが走行したまま手動で爆弾を除去しようとするが…。各々で時速を最低限まで落としたり…この手作品お馴染みのピンチを実に面白巧く見せている。
犯人と警察の攻防としても非常に面白い!
犯人は500万ドルを要求。その巧みな現金受け取り方法。
警察も決して先手を取られる訳ではないが、逮捕の失敗続く。
犯人の一人が乗るバイクとパトカーのチェイス、地道な捜査…。
徐々に徐々に犯人に近付いていく様は、何だか“実録・昭和の大事件簿”を見ているようであった。
ネタバレになるが、クライマックス、犯人は金を手に入れ、国鉄は爆弾の図面を手に入れたと思ったら、予想だにしない不測の事態! 最後まで気を抜く暇は無い。
寡黙な漢役が多い高倉健が犯人役とは珍しいキャスティング。でも、犯人であっても哀愁漂う佇まいはやっぱりカッコいい。
一時停止したくなるほどのオールスターキャスト。中でも抜群に光っていたのは、国鉄運転指令長役の宇津井健。事件の解決、何よりも乗客/乗員の無事、判断迫られる板挟みになりながらも時に冷静に、時に熱く体現。名演であった。
佐藤純彌監督が“ミスター超大作”と言われるようになったのは本作から。スケールの大きいアクション、スリリングなサスペンス、深いドラマを見事融合させてその手腕を思う存分発揮。
新幹線が華々しく開通したばかりだったので、国鉄(現JR)が協力を拒否。なので、新幹線走行シーンのほとんどは特撮。爆発シーンも含め、驚くほどの高クオリティー。
とにかくスタッフ/キャスト一丸となって、面白い映画を作ろう!…という熱量が伝わってくる。
パニック・エンターテイメントだけに非ず。先にちと述べてしまったが、ドラマとしても非常に見応えある。
いや寧ろ、ドラマ部分こそ本作を格別なものにしていると言ってもいいくらい。
犯人は3人の男。主犯の元工場経営者・沖田、工員青年の浩、元過激派の古賀。
人生に行き詰まり、社会の底辺で生きる男たち。
もう一度、人生をやり直す。その為に選んだ路線が…。
国鉄運転指令長の倉持もこの事件に携わって路線が狂った。
先にも述べたが、板挟み。倉持は乗客/乗員の無事優先。が、警察は犯人逮捕優先、国鉄は面子優先。
協力し合ってるはものの、時折意見がぶつかり合う。その重責。
簡単に“お客様の命をお守りします”と言うが、それが本当はどんなに重い事か。
沖田は言った。決して死者は一人も出さない、と。
が、それは出来なかった。乗客の妊婦が難産で胎児が死産に…。
また沖田も、浩と古賀を亡くす。
彼らの行いは間違い、愚かな事。が、
どん底であっても、固い友情で結ばれた友がいる。
大金は手に入れたが、欠けがえのない友を亡くす…。
俺たちはこの一度走り出したら停まらない新幹線(=運命)で良かったのか…?
ハリウッド映画ならヒーローとして描かれる倉持の役所だが、焦燥し、ほろ苦く。
沖田の最期も印象的。
強いて言えば、乗客がパニックを煽るだけの背景の印象で、こちらにもメインとなるような人物が欲しかったが、それ以外は文句ナシ!
1975年の作品。『スピード』よりも『新感染』よりも“速かった”!
本当に日本映画でまたこういう、オリジナル企画で骨太でスケールあって面白いエンタメ超大作を作って欲しいと思っている。
日本映画界よ、面白ければ決して遅くはない!