驟雨

劇場公開日:

解説

故岸田国士の戯曲『紙風船』『驟雨』『ぶらんこ』『屋上の庭園』『隣の花』『犬は鎖につなぐべからず』『かんしゃく玉』等から「ここに泉あり」の水木洋子が脚色し、「くちづけ(1955)」第三話の成瀬巳喜男が監督、「朝霧(1955)」の玉井正夫が撮影を担当した。主なる出演者は「花ひらく(1955)」の佐野周二、「美しき母」の原節子、「あばれ行燈」の香川京子、「花嫁会議」の小林桂樹、「生きものの記録」の根岸明美、「くちづけ(1955)」第三話の伊豆肇など。

1956年製作/90分/日本
原題または英題:Passing Showers
配給:東宝
劇場公開日:1956年1月14日

ストーリー

結婚後四年、並木亮太郎と妻文子の間には冷い倦怠の空気が流れている。ある日曜日の朝、些細なことからいさかいを始め、亮太郎はプイと家を出て行った。味気ない思いで夕方を迎えた文子がお菜の買い出しから帰ると、新婚旅行に出かけた筈の姪のあや子が待っていた。旅行先で花婿が友人と飲みに出かけ、朝帰りしたので、ケンカしたというのだ。まもなく亮太郎も戻って、その話を聞き、男性の立場を弁護したが、良人に多分の不満を持つ文子や、若いあや子に攻撃されるばかりだった。数日後、隣家へ新婚間もない今里念吉と雛子が越して来、雛子の若々しい肢体が、亮太郎の目に眩しく映った。たまたま雛子と二人だけで映画を見ることになって、亮太郎は久しぶりの刺戟に興奮を覚えた。次の日、亮太郎が出社すると、部長から会社の経営が思わしくないので人員整理があると聞かされ、自棄半分の彼は同僚と徹夜麻雀で家を明けた。翌日の昼休み、文子とデパートの屋上で待合せた亮太郎は、退職金を貰ったら、田舎でくらすつもりだといった。文子が帰宅すると、雛子が死んだ牝鶏をさげてやって来た。文子の家の飼犬が幼稚園の鶏を噛み殺してしまったのである。文子に代って園長から嫌味をいわれ、多少業腹の雛子は、並木家に対する近所の悪評を洗いざらいまくし立てた。その夜、亮太郎が園長から無理矢理買わされた鶏を会社の同僚たちと食べていると、近所の“平和会議”から帰った文子はひどく機嫌が悪かった。正面衝突した亮太郎と文子の感情をときぼぐしたのは、良人と仲直りのできたあや子からの手紙だった。亮太郎と文子は庭へ転って来た紙風船をつき始めた。二人はお互に励まし合って、この厳しい世の荒波を乗り切って行くことだろう。

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映画レビュー

3.5【ある貧しい夫婦の、つまらない事から起きた夫婦喧嘩と和解を描いた何だか、遣る瀬無くも、そこはかとないユーモアを漂わせた作品。】

2024年3月18日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

悲しい

知的

幸せ

■結婚4年目の夫婦、並木亮太郎(佐野周二)と妻・文子(原節子)の間には冷たい倦怠の空気が流れていた。
 ある日の日曜日の朝、2人はささいなことからいさかいを始め、亮太郎は出かけてしまう。
 夕方を迎え、文子が買い出しから帰ると、新婚旅行に行っているはずの姪のあや子が待っていて、夫に対する愚痴を言い始める。

◆感想

・成瀬己喜男監督は、今作を含め情緒的で遣る瀬無い作風から”ヤルセナキオ”と綽名されたそうであるが、今作を観ていると正にそう思う。

・常に胃痛を抱える夫と、外で働きたいと思っている妻との齟齬。

・夫は、弱小会社のリストラ要員になった事をきっかけに田舎に戻りたいという思いを描くが、妻はその想いを甘いと一喝する。

<だが、そんな二人だが、紙風船で遊んだりするラストシーンなど、ユーモアや小津監督作品では観たことが無い、倦怠期を迎えた妻を演じる原節子が、飾ることのない自然な演技で魅せる作品である。>

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NOBU

4.0変更されたラストシーン

2023年7月29日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

単純

知的

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こまめぞう

4.0夫婦の実像がじわじわと。

2022年11月7日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

1956年。成瀬巳喜男監督。結婚4年目の夫婦のもとへ、新婚旅行から帰っきた姪が一人でやってくる。夫がいやになったという姪の話を聞きながら、自分たちのことを考えていく夫婦。隣に越してきた夫婦をはじめとしたご近所との関係、世話をしている野良犬をめぐるあつれき、夫の会社の合併から出た退職勧奨、、、。さまざまなエピソードを紡いでいく中で、徐々に明らかになる夫婦の本当の関係。
次々とやってくるエピソードがあまりに些細で日常的なものなので、前半はどうしたものかと戸惑いしかないが、夫の胃病と貧乏ゆすり、社交的なことが苦手な妻の「固さ」があらわになるにつれ、前半のエピソードがネタに過ぎないことが明らかになってくる。当初の余裕がなくなっていき、露呈されている本来の男と女の姿。すばらしい。台所で泣いたと思ったらお茶漬けをすする、原節子の姿には凄みが漂っている。若い時に見たら面白くないと一蹴してしまいそうな傑作。

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文字読み

5.0生まれる前の物語ですが、日本人の夫婦の物語は21世紀の今も変わりないと思います

2022年9月30日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:VOD

1956年公開、白黒作品

驟雨とはにわか雨のこと
それも急に激しく降り始めてすぐ去って行くようなものだそうです

驟雨は一度か二度劇中で降ります
隣に夫婦が引っ越ししてきた最中のものはハッキリと映像で表現されます

でも本当の驟雨はそれではありません

時折おきる主人公夫婦の感情のぶつかり合いです
でも台風みたいな暴風雨じゃありません
急に降り出した本降りのにわか雨のようなもの

ラストシーンの紙風船の打ち合いがそれです

にわか雨はすぐ上がります
新婚旅行帰りそうそう旦那の文句をあれこれ言って怒っていた姪の山本あや子が夫婦の仲の良さそうな写真を送って来たみたいに

夫婦も長年やってきた方なら、あるあるのオンパレードでしょう
自分も身につまされました

なんのことなのない会話もできなくなって、お互いが傷つく言葉や物言いの応酬
とてもリアリティがあります
既視感というべきかも知れません
なんだか観ていて針のむしろで、チクチク心が痛みました

冒頭の姪の山本あや子の新婚旅行でのケンカのエピソードだってそうです
男女の価値観、生態の違いがよく描かれています

まあそのエピソードもたいがいで、そりゃあ怒るわなあというシロモノでした

20歳くらいの頃、初めて彼女と同棲の真似事した大昔のことを思いだしました
彼女からいろいろと幾つか泣いて頼まれました
トイレで音を立ててしないでとか・・・
あとは忘れてしまいました
遠い遠い昔のことになってしまいました

本作の5年前の成瀬監督の「めし」と似た倦怠期の夫婦の愛情物語です

原節子36歳
佐野周二42歳
ラストシーンに登場する子供が二人くらいいてもおかしくない年齢の夫婦です

子はかすがいとは本当です
子供がいないなら、余程お互いが努力しないとならないのだと思いました

劇中登場する駅は、よく見ると小田急線梅ヶ丘駅のようです
下北沢のひとつ向こう

昭和31年の木造の小さな駅、もちろん高架なんかじゃありません
駅の売店、商店街の看板の数々・・・
商店街や住宅街の光景をしげしげと見入ってしまいます

粗末にみえる木造の住宅も、当時は立派な新興住宅街だったに違いありません
道路はみんな未舗装です
ものすごい変わりようです

街の光景が様変わりしたように、新婚当時と、長年連れ添った現在の夫婦の関係は全く変わってしまったかもしれません

生まれる前の物語ですが、日本人の夫婦の物語は21世紀の今も変わりないと思います

夜の幼稚園での集会のように、互いの不満を言いたい放題やってしまったらひとつ屋根の下で暮らしてなんかいられません
ぐっとお互いの不満を胸の内に押し込めて行かないと持ちゃしません
それを言っちゃあおしめえよ!です

それでも驟雨が時折訪れて、雨を降らせないといけないのかも知れません
確かに未舗装の道は、水溜ままりができて泥だらけになるかもしれません

それで雨降って地固まるっていうじゃ在りませんか

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あき240