劇場公開日 1955年9月28日

「父の法事で始まり兄の葬式で終わる」自分の穴の中で talismanさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5父の法事で始まり兄の葬式で終わる

2024年5月26日
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鑑賞方法:VOD

興奮

寝られる

1955年の映画。高級住宅地、渋谷の松濤に住む家族。兄は病に伏せって面倒見る妹(北原三枝、凄く美しい)は母親や兄からの縁談話攻勢にうんざりしている。母といっても亡くなった父親の後妻だから血の繋がりはないし、縁談話といっても兄の友達繋がりでなんとなくそこらへんに独り者がいるから、という感じで投げやり感満載だ。だから娘もぶーたれる。候補者の一人、離婚経験ありの医者(三國連太郎、若い!)に関心持つが女たらしだ。加えて、40才そこそこの美しい「母」を口説いたりしている様子を察知している娘は母に嫉妬している。兄は兄で別れた妻の写真とルオーの絵を入れた写真立てを枕元に置いて株取引に埋没している。

昼間は工事の音がひっきりなし、米軍の軍用機が飛んでいる音もしょっちゅう聞こえる。ラジオからよく流れているのは株式市場。その中を縫うようにチェンバロだけの音楽(芥川也寸志)が流れる。場違いのような、爪で引っかかれるような、不調和な気持ちになる。

登場人物のみながもやもやとした思い、欲、執着、嫉妬、ワガママを自分の内に隠し持っていてその中にこもっている。露悪的な人間もいる、黙ったまま言動に出せない純粋な正直者もいる、計算高いちゃっかり人間もいる。

この映画に出てくる男はみんな妻に去られている。女に懲り懲りでありつつ、女とは遊びと割り切る男も居れば、去った妻を忘れられずにいる男もいる。去った側の女は全員登場するわけでないが多分サバサバしていると思う。

戦後10年、東京は工事でどんどん開発中。日本はアメリカの植民地のようなものだ、とわかったような、或いはクールな台詞も聞こえる。東京中が古い家屋が壊されると同時に、伝統や慣習とされてきたことも壊れていく。人間がもともと持ち合わせていたエゴがどんどん顔を出す。そんな流れについていけない純粋な正直男(宇野重吉、適役)は穴の中に入って寝転んでいるしかない。

talisman