秋刀魚の味(1962)のレビュー・感想・評価
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秋日和と日をあけず観たせいか前半は笠智衆と佐分利信の設定が違うだけ...
秋日和と日をあけず観たせいか前半は笠智衆と佐分利信の設定が違うだけの同じ映画のように似た空間でストーリーがゆっくり進んでいく。何気ない日常の積み重ねを描きながら人生の深さを感じる風情ある映画だった。小津作品にはいつも人間の孤独を感じる。
軍艦マーチのシークエンス
元駆逐艦の艦長である笠智衆が、当時の乗組員だった加東大介とバーへ行くシークエンス。この部分は映画の本筋とは直接関係のない話であるのに、わざわざ挿入されたのはなぜだろう。
軍艦マーチに合わせて敬礼をする加東に応えて、笠とバーのマダムの岸田今日子が掌を顔にかざす。この時の岸田の表情のなんと可愛らしいことか。控えめに微笑みながら頭を左右に揺らす彼女からは、後年のおどろおどろしい役柄にぴたりとはまる女優を想像することはできない。
そして、敬礼をしながら行進を始める加東のコミカルな姿は、どこまでが冗談で、どれくらい真面目なのか見当がつかない。この人の芝居にどこまで本気で付き合えばいいのか分からない状況を観客はしばし楽しむことができる。こうした演技はこの人をおいて他に出来ないだろう。主役の笠ももちろんだが、加東もオンリー・ワンの俳優だ。
考えてみれば、他にも代替えのきかない俳優が何人も出ている。中村伸郎だって、あの冷めた毒舌と下ネタで友情を温め合う芝居など他にできるものがいるだろうか。杉村春子だって、あの行かず後家の品格を保ったやさぐれ感を他のどの女優が出せるというのか。
しかし、このシークエンスで重要なのは加東や岸田の魅力ではない。彼らの仕事の素晴らしい出来映えとは本来関係のないところにこのシークエンスの意味がある。
笠と加東が「もしも戦争に勝っていたら」という話をする。もし日本がアメリカとの戦争に勝っていたら、今頃はニュー・ヨークにいるかも知れないと夢想する加東に対して、負けてよかったのではないかと応じる笠の会話。
下らない連中が威張り散らすことがなくなっただけ、戦争に負けて良かったのではないか。
これがこの二人の結論であった。
戦争を経験してきた者たちのこれが感想なのだろう。家が焼けた、食べ物に不自由をした。そんなことよりも、バカが大威張りだったことのほうが嫌な思い出だったのである。
だからこそ、お道化て軍艦マーチのリズムに乗ることができるのだ。あれを偉そうに押し付けた者たちを茶化すことで、嫌な思い出を笑い飛ばしたいのだ。
遺作となった小津安二郎監督はどうしてこのような戦争への回顧を映画に差し挟んだのだろうか。きっと鉄筋コンクリートの団地で核家族という物語を始めた人々に、憶えておいてほしかったのだろう。
それにしても、ゴルフの練習をする佐多啓二のフォームはきれいだった。実生活でもかなりやり込んでいたんだろう。
ゆっくりと時は流れて
日本で繰り返し描かれてきたテーマ。
娘の嫁入りに憔悴する父と、その家族について。
定番中の定番だからこそ、ごまかしはきかない。
ドキュメントに近いような、飾りたてない演技。
ゆっくりと時は流れていく。
少し色あせた灰色の映像に、赤や黄色の差し色が効いている。
なんとも、美しい・・・
この時代に自分も生きている様に感じる、リアルな世界観。
だから一度観だすと、深く引き込まれてしまう。
ニッポン・ノスタルジーに支配される、心地良さに身を任せてみては?
古き良き映画、でも自分好みではないかも
総合:60点
ストーリー: 65
キャスト: 65
演出: 55
ビジュアル: 65
音楽: 65
人々のありきたりの日常と彼らの抱えるささやかな問題を、しっかりと話としてまとめて映画化するという点において、本作は独自の位置を確保している。やたらと派手な出来事や目を引く映像がなければ映画化にならないことが多いであろう娯楽産業において、この位置づけは興味深い。その中で、恩師とその娘の人生の「失敗例」としての描き方はなんとも厳しい。
しかしこのころの映画の特徴なのか小津安二郎監督の特徴なのか知らないが、科白は互いに重なることもなく交互に順番で行儀よく喋られる。映画の中の会話というよりも舞台演劇の科白回しのようだ。しかも淡々と棒読みをするだけである。現代の映画を見慣れていると、それがいかにも演技という感じを受けてあまり自然な演出には思えない。セットもたいしたことはない。
この不自然な演出も含めて、なんとなく良さはわかりつつも、それほど好きな作品とも言い難い。やはり昔の映画だなと感じるし、のんびりしたなかなか進まない話にもちょっと退屈を覚えることもある。世間の評価も高いし古き良き映画なのだろうが、もしかすると自分の世代の好みではないのではないかと思う。いやでも若い世代もこの映画を支持しているようだから、ただ単に自分の趣味にぴったりとは合わなかったということか。
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