秋刀魚の味(1962)のレビュー・感想・評価
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東野英治郎
ひょうたんとあだ名された先生・東野英治郎の泥酔演技はさすが。素面の時の平身低頭姿勢も哀愁を漂わせていい雰囲気だ。掃除機、冷蔵庫、高度経済成長期における三種の神器と呼ばれる家電と生活臭が懐かしさいっぱい。といっても知らない時代ですが。
見合いでもなく、周りでどんどん縁談をすすめる昭和の良き時代。兄の同僚の三浦にちょっと気があっただけだったのにすれ違いで・・・と、その後があっさり決まってしまう。子どもたちの目線はほとんどなく、父親と親友2人の描写が中心。
「(人生は)ひとりぼっち」という言葉で、小津の人生観を象徴する。結婚させた方が娘の幸せになるんだという思いが伝わってくるが、それよりも寂しく死に行く前に身辺整理をしただけのような気がしてならない。日本の敗戦についての考察も興味深いところだ。
秋刀魚を焼いてあげたい
個人評価:3.8
日本一哀愁が漂う役者、笠智衆。
娘の幸せを願う父の思いと、対比に描かれた、かつての恩師ヒョータン。この対比が人生の切なさと、父親の変わらぬ娘への愛情が描かれており、とても文学的だとも感じ、またその父の姿に哀愁を感じる。
息子と父との2人暮らしとなり、手伝いもなく1人で背広を脱ぐシーンなど、とても侘しく思え、さすが哀愁漂わせれば日本一の笠智衆である。
劇中外食ばかりの父にとって、家庭では手のかかる秋刀魚の味はもう味わえないと思うと悲しい。
息子が庭で父の為に焼いてくれるだろうか。
他に類のない"豊かさ"
劇中に詰まった無限大の人間味を、底なしに噛み締められる他に類をみない素晴らしき作品… セリフのひとつひとつに、人生や人間関係についてしみじみと考えさせられる豊かな"含み"を持たせた大傑作です。
ゆったりと平和な昭和の日常を描いた作品でありながら、多角的な視野から映し出した人間模様がなんとも良い…。定点カメラから対象を第三者的視点から客観的に観察しているかと思えば、シーンの切り替わりで見えている角度が変わる。作中の登場人物の視点から、お互いを見つめ、観察することを通して観客の感じ取り方を無限に味わうことを可能とする、そんな映画における最大の魅力を引き出した革命的な手法は、時を超え、国を超えて普遍的に評価される最たるものであるように感じます。
技術的な観点で映画の引き出す最高の魅力を発見した遺産級の作品でありながら、日本的な良さを現代の我々と世界に知らしめる偉大すぎる作品であるように感じられます。登場人物達の人間関係には、なんだか程よい"余裕"があるように思えました。昭和を生きたことがない私には真偽のほどはわかりませんが、当時の社会、人間関係にある種の心の余裕というか、豊かさがあったのではないかと感じます。
会話はゆったりとしたテンポで行われるのに、一切気まずさが感じられません。作中では集合住宅であっても簡単にお隣さん家にトマトを借りられるし、ふらっと他人のお宅も訪問できる。こんなにも密に人と関係を持ってたら、さぞかし気遣いとストレスで疲れるだろうと思ってしまうのですが、お互いに緩やかな人間関係が形成されており、なんともあっさりしています。そんな緩やかな形成体系の中で多くの人と繋がりを保ちながら、適度な距離感がある。例えば、お酒の場でもあっさりとおいとまを切り出せるし、数年前にちょっと関係のあった人と一緒に飲みにも行ける。戦時中に海軍の部下だったという男性から一緒に飲みにいきましょうと誘われて、本人は「はて、どなたでしたか」なんて言ってるにも関わらず、です。現代に生きる私からすれば、そんなこと到底出来ませんけど、それが当たり前にできるなんとも器用な人間関係に、心底憧れました。
戦後間もない、昭和を描いた映画ですから、所々に男性優位が垣間見れるシーンがありますけれども、作品では女性の偉大さを身に染みるように語りかけているように思えます。「私は人生、失敗しました。娘を便利にしすぎたから、独りぼっちです」"ひょうたん"先生の廃れた姿は、女性の存在に支えられながらも、その偉大さに独りよがる世の男性達に警鐘を鳴らしていたのかもしれません。
杉村春子が良い。
小津安二郎の作品を観た範囲で言うと、現代からみると普通の生活を描いてるようで、結構、経済的には豊かな家庭環境を描いてる。
この作品でも、恩師が下町のラーメン屋を営んでいる事に哀れさだけが感じられる表現をしているのだが、社会の底辺でも足掻きながらも、生き生きしてる生活はあったと思う。
その辺が、いまいち小津作品にのめり込めない理由かな。とか言いながらまた他の作品を観るのだから何かしら引き付けられる所があるんだろう。
哀愁
妻を失った男が、頼りの娘を嫁に出す話。
娘を傍に置いておきたい父親、父親が心配な娘、家族というものが重んじられていた時代を感じることができた。
結婚というものも、現代とは異なる認識であることがよくわかる。
しかし、男やもめとその娘の気持ちはなぜかよくわかる。
東野英治郎さんが演じる男やもめは、娘を嫁に出さなかった。そのしっかりした娘がこっそりと涙を流すシーンは辛かった。
今でこそ、結婚をしなくても男女関係なく好きなように生きていけるが、時代が違えば結婚をしないことは不安や孤独を暗示しているのだなぁ...。
軍艦マーチを懐かしむシーンはあるが、戦争を語ることはない。
ただ、大切な娘を嫁に出すことを考える父親が描かれている。
もっと年をとってからみるともっと深く読み取ることができるのかなぁと思った。
これぞ小津作品の完成形ではないでしょうか
秋刀魚は登場しません
そのほろ苦い味をタイトルにしています
1949年 晩春
1951年 麦秋
1962年 秋刀魚の味
この三作品はテーマが同じです
特に本作は晩春の実質的なセルフリメイクと言って良いと思います
ヒロインが原節子ではなく岩下志麻なのは、流石に年月が流れて彼女の年齢では最早無理との判断と思われます
男やもめの初老の男が娘を嫁に出すという物語なのですから
よって本作のヒロインの名前は路子で紀子ではありません
紀子は原節子の為の永久欠番のような名前なのだと思います
岩下志麻は美しく気品もあり適役ではありました
しかしやはりその姿の向こうに原節子の面影を見ているのは観客だけでなく小津監督もその面影を追っていたように思います
主人公の周平の会社は京浜工業地帯の横浜寄りのようですし、彼の言動から家はどうも川崎辺りの雰囲気です
ヒョウタンのラーメン屋、そこで出会う加東大介の演じる海軍時代の部下が連れていくトリスバーはおそらく蒲田であろうと思われます
長男の光一の住む団地は池上線の石川台駅の近く
あの辺りに公営団地は無いので、社宅という設定なのだと思います
ところが路子は石川台駅で三浦と一緒に石川台駅の五反田方面のホームに立っています
本来なら反対側の蒲田方面のホームに別れて蒲田から京浜線で川崎の家に帰るべきところです
なかなか手の込んだ演出の仕掛けだと思います
同級生があつまる料理屋の若松はネオンの位置から見て銀座6丁目と7丁目の間辺りのようです
ラジオのナイター中継は大洋阪神戦
調べて見るとその年は阪神優勝で大洋は2位の結果でした
杉村春子の演じるヒョウタンの娘
アラフィフで独身のままの無惨さを圧倒に雄弁に演技で語って見せます
晩春における、父親が娘に嫁に行けと雄弁に語るシーンを本作ではその杉村春子のシーンで置き換えているのだと思います
本作の方がよりスマートに雄弁に語っていると思います
のんびりして真剣に取り組まなかったが為に路子の縁談相手が他に取られたと言われて周平が焦るシーンも見事な伏線回収で鮮やかな決まり方でした
軍艦マーチが何度かかかります
それは過去を懐かしむ、過去の思い出にしがみつく心情の記号として扱われています
加東大介が演じる自動車修理工場の社長は周平を案内したトリスバーで海軍時代を盛んに懐かしむのですが、周平は全く関心を示しません
周平もヒョウタンも現在をただ懸命に生きていて過去を振り返って懐かしんだりしていないのです
しかしラストシーンで酔いつぶれた周平は軍艦マーチを口ずさんだのです
過去の方に心が向かってしまった心情を見事に表現した演出です
もちろん娘の路子の面影を反芻しているのです
海軍の思い出なのではありません
自分が若い時の思い出
妻がまだ生きており、まだ小さかった頃の娘の思い出に耽っているのです
しかし彼は泣きはしません
秋刀魚の味のようにほろ苦い思いが胸中に詰まっています
秋刀魚の味は美味しいのです
酒に合うのです
こんな美味しい酒は無いのです
秋刀魚の味を快く噛みしめているのです
晩春での再婚の嘘の設定を、死別した妻にトリスバーのママの面影が似ていたという話で置き換えてよりスマートに処理されています
また娘のエディプスコンプレックスという別の要素を入れ込むこともなく、焦点を絞りめてもいます
本作は大変にスマートに何度もトライしてきた主題を本当に最後の最後で完成させたのだという実感を感じます
これぞ小津作品の完成形ではないでしょうか
なぜこんな映画も飽きずに最後まで見られるのか?
この作品は確かに皆さんがおっしゃるように庶民生活の喜怒哀楽が込められていて美しい映画である。すぐに飽きてしまいそうでなかなか飽きない。微妙に面白いエピソードが連ね流れており、最後まで飽きない味わいのある作品になっている。
しかし本当にそれだけの映画なのだろうか?
それだったらこんなふうに人物を正面と彼から取る必要があるのだろうか?
この映画の冒頭部分に注目すべきショットがある。穏やかな対応している主人公の背後で煙がもくもくと渦巻いているショット。このショットを我々は見逃してはならない。
人間の顔というものは感情を表現するためにできているのであるが、同時に感情を偽ることもできる。
この映画には「嘘」にまつわるエピソードが2つも含まれており、それは明らかにこの作品のテーマあるいはアンチテーゼを暗示している。まるで、この作品全体を通した「嘘」を見抜いてみよ…と挑戦されているようだ。私にはこの映画が、単なる人情物語だとは、どうしても思えない。
常に人物を正面からとらえることにより、だんだんとそれが人間ではないように見えてくるから不気味だ。この人は口ではこう言ってるし顔では笑ってるけども本当にそうだろうか…という不安に駆られてくる。人間が相手と心が通じたとか感動を共有したというのは実は稀なことであり、またそれも全面的ではなく1部分のことである。しかし、その一部が通じたということか、また人間にとって、とても嬉しいことなのだ。この映画の一場面一場面を見るにつけ、きっとこの登場人物は、こう考えてるに違いない…と考えてみる。私はこの映画をそのようにして味わってみた。
この作品は、小津安二郎の作品の中では3番目とか4番目に位置づけられているが、私はno1と推薦したい。
小津作品
どれ見てもいっしょーヽ(^。^)ノなんだけど
どれも好きだな~
映像的にはこれが一番好きかな
遠い昔、思い出したくてもあまり記憶にない昭和を無理やり
自分のものとしようとする映像
しかし人の考えることは根源的にに変わってない
モノクロからカラーとなってもまだまだ続く嫁に行くのか行かぬのか問題...
モノクロからカラーとなってもまだまだ続く嫁に行くのか行かぬのか問題。ってこれ、遺作なんですね。最後までこのテーマを貫いた姿勢は圧巻。
ラストの笠智衆の姿、以前にもあったよね。そういや団地とか、会社も見た記憶があるぞ!使い回しか?(笑)
今回はカラーになったせいか、さまざまなエピソードがあったためか、また新たな感覚で楽しめました。
ヒロインはやはり紀子でいって欲しかった。新ヒロイン、岩下の志麻姐さんがウブです、演技がちょい寒いです(笑)
ところで秋刀魚って何だ?
間が引き立つ、日本の映画
1962年の作品。とにかく味がある映画。日本の座敷での生活を表現した超ローアングルの連続。そして、独特の会話(,受け答え)と間。
当時、笠智衆は58歳。劇中では55歳。でも随分とおじいさんに感じる。今の感覚からだと、どう見ても70過ぎに見える。この50年間で、年齢に対するイメージがこんなにも変わるのかなぁ。岩下志麻は当時21歳。とんでもなく綺麗!当時の銀幕の美人ってレベル凄すぎ。
古き良き時代の黄昏を感じてください。
いい時代の予兆。ここから日本が本格的に成長していくんだな。
でも、この時代に残っていた良さは、同時に失われて行く。
そんな感じで黄昏てみました。
主人公の同級生の自宅にソニーのTV5-303があるのが見えて、うれしかったりしました。
ラストの「独りぼっちかぁ」が印象的。トリスバーでの元軍艦の乗組員が...
ラストの「独りぼっちかぁ」が印象的。トリスバーでの元軍艦の乗組員が軍艦マーチで敬礼しながら、行進する姿もキュートで良かった(*´∀`)
打ちぱなしのゴルフ練習場のシーンで長男のゴルフスィングに惚れ惚れした。後エプロン姿の長男に萌え~(*^^*)
●古き良き昭和。
スーツ姿の笠智衆は初めてだ。
高度成長期突入段階の日本。
女性が普通にお茶汲みしてたり、冷蔵庫買おうか迷ったり。
ゴルフクラブやハンドバックに憧れたり。
一方で、戦争の会話も。
「なんで負けたんですかね」「負けてよかったんだろう」
東京物語でも、こういう1コマがあったな。
バーで軍艦マーチをかけてもらう。
ご機嫌に踊り出す。
曲に合わせて敬礼する。
教育ってのは怖いもんで、戦後世代はなんとなく軍歌に抵抗を感じる。
でも彼らにとっては、青春真っ只中の盛りの流行歌なんだろうと実感させられる。
別に軍歌そのものが悪いワケじゃない。
同じように、適齢期が来たら女性は結婚を、とか、
日本人みんながほとんど同じ価値観で生きていた時代。
そうやって見合いでスッパリ嫁に行ったり、
娘がいなくなったらなったで、男たちは生きて行く。
人間がその寿命の中で、それぞれのタイミングを理解して
自然の摂理に抗うことなく生きた時代。
時に窮屈さもあっただろうが、人はリミット決めないと
ダメだなあと感じさせられた。
昔の池上線とかトリスバーとか、トマトを借りる団地の付き合いとか。5...
昔の池上線とかトリスバーとか、トマトを借りる団地の付き合いとか。50年経つと世界って変わりますね。
娘が嫁に行く頃になったらもう一度観たいと思います。
秋日和と日をあけず観たせいか前半は笠智衆と佐分利信の設定が違うだけ...
秋日和と日をあけず観たせいか前半は笠智衆と佐分利信の設定が違うだけの同じ映画のように似た空間でストーリーがゆっくり進んでいく。何気ない日常の積み重ねを描きながら人生の深さを感じる風情ある映画だった。小津作品にはいつも人間の孤独を感じる。
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