「よく呑むねぇ」秋刀魚の味(1962) 赤ヒゲさんの映画レビュー(感想・評価)
よく呑むねぇ
小津安二郎監督の遺作なんですね。今作公開の翌年(63)、還暦の誕生日に亡くなったのを知りました。妻に先立たれた初老の平山周平(笠智衆)が年頃の娘・路子(岩下志麻)のお見合い話を巡って逡巡する物語ですが、岩下志麻さん演じる路子のキャラがよかったです。監督好みのキャラなのかもしれませんが、「彼岸花」(58)の幸子(山本富士子)に少しかぶりました。何よりも、今作が製作された昭和30年代後半の日常がとても興味深かったです。団地に住んでいる長男の嫁・秋子(岡田茉莉子)が食事の支度をしていて買い置きがなかったトマトを隣の家に借りにいくシーンとか、衝撃的でした(笑)。隣の家には冷蔵庫があるので、トマトも常備できるっていう話につながっていて、今度、我が家にも冷蔵庫を買うつもりだけど、そうなると家計が厳しいから、旦那(佐田啓二)が欲しがっているゴルフのドライバーが買えないとか、自分も白のハンドバッグが欲しいとか、日常的な会話の一つ一つがコミカルに描かれていて、面白いです。男達は何かというと飲み屋で呑んでて、そこで娘の縁談話なんかも相談しているわけですが、帰宅すると、「また呑んできたんですか!」と娘に呆れられるという、そこで「おまえのために縁談の相談をしてたんだ」とは言わない、そんな何ともいえない親子愛をさりげなく描いていて、なかなか味わい深い作品でした。トリスバー「かおる」でのシーンもよかったですね。ママ役・岸田今日子の妖艶な魅力もあり、戦友である坂本(加東大介)との戦争体験の部分もとても印象的でした。徹頭徹尾、小津監督の美学が貫かれているような作品でした。
赤ヒゲさん、コメントありがとうございます。小津監督の映画は「娘(自分の娘とは限らない)を片づける(結婚させる)」話が圧倒的に多いし、監督にとって俳優は小道具のように見えます。それでも、役者によっては全く異なった色合いになる映画もあって、そこに感動します
talisman様
コメント、ありがとうございます。
今観るからこそ、とても新鮮ですよね!
息子が父親に対して「おい!」と呼びかけているところも驚きました。男女関係も明らかに男社会あるあるですが、かといって、女性が服従しているわけでもなく、自分の意見を遠慮なく話していて、この時代はこれでうまくやっていたのかなと思ったり…。きっと、小津監督の好きな家族像を描いてのでしょうけど、路子もマダムもとても魅力的でした。
赤ヒゲでした。

