劇場公開日 1982年4月9日

「ある環境で生きる、ということ。」さらば愛しき大地 あまねさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0ある環境で生きる、ということ。

2021年10月3日
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悲しい

単純

萌える

ストーリー自体はシンプルなのに、魅せられた。人物から小物に至るまで、そして写し方も、とても丁寧にリアル感を大切に作ってあるからかな。

冒頭の、茶飲み友だちのおばさんが訪れる場面ひとつからして引き込まれる。そうそう、こういう感じだよね!と。

俳優さんたちの演技もきっと細かかったのだろうと思う。生き方が各々の目ぢからにまで現れている。
登場人物のほとんどは、少しドロンとした目をした、あまりくせのない人たち。
一人だけギラギラしてやたら勘が強そうなのが幸雄で、こういうクセのある目つきをしている人っているな、この刺激のない環境ではキツいね、きっとイライラするよね、と、つい同情してしまう。
じゅん子もまた他と違っていて、蝋燭の細い焔が消えそうで消えないような…よくも悪くも繊細なオーラを放っている。
その対極的なのが、目つきに少しドロンとした感が漂う嫁のふみ子だと思う。自分の家はここだと一度だけ考えたらあとは何も考えず日常をこなす。
結局はこういう少し鈍そうな人の方が、どんな環境に適応して生きていけるんだ、と、納得。
この家は、こういう人がいるから、豚を追いかけながら明日も何とか続いていく。

写しかたも、引き付けられた。
子ども二人の姿が消えたときのはっとなる一瞬、洗車する主人公の視界に入っている水の粒、サワサワと風になびく水田、トラックが田んぼのなかを走る光景。

全体から感じたのは、ある環境で生きていかなければいけないときの、どうしようもない現実、のようなもの。
題名がなぜ「さらば愛しき大地」なのか、考えさせられる。

あま・おと