「市の償い」座頭市喧嘩太鼓 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
市の償い
シリーズ19作目。1968年の作品。
一宿一飯を世話してくれたやくざの親分への義理から、若いやくざを斬ってしまった市。しかし親分の狙いはその姉・お袖で、彼女を我が物にし女郎に売る事だった。憤った市はお袖を救い出し、共に彼女のおばの元へ。追う追っ手。幾度も現れる浪人・柏崎…。
図式は市とヒロインの逃避行なのだが、単にそれだけじゃない。
お袖の弟を斬ってしまった重責、後悔、償い…。その為にこの身を尽くす。
市は弟の敵。でも旅の中で、何より自分の身を案じ尽くしてくれる市に対し…。敵と次第に芽生える恋心の複雑な心境。
一筋縄ではいかない旅と関係。
何と言っても、お袖を演じた三田佳子の美しさでしょう!
可憐さは勿論、薄幸さも滲ませ、本作のヒロインにぴったり!
ライバルは佐藤充。役不足…と言うより、果たして本当に必要ある役だったのかな…?
ミヤコ蝶々や藤岡琢也は出番は僅かながら、ナイス・コメディリリーフ。
本作の市はいつになくツイてない。
お袖の為に得意の博打で勝負するが、珍しく負け。
イカサマでやっと勝ったのも束の間、柏崎に見破られる。
博打場のやくざに簀巻きにされ、追ってきたやくざの子分らにボコボコに。
人間、ダメな時は何をやってもダメ。
でもそれは私利私欲ではなく、人の為。人間臭い市。
しかし最後は、悪徳やくざ一味や柏崎を成敗。きちんとメリハリ付け。
その柏崎との決闘シーン。
時は大晦日。祭りの太鼓が激しく鳴り響く。
音が頼りの市にとって不利な状況。苦戦。
一瞬、音が止んだ。一瞬で勝負が決まった。
傑作多い三隅座頭市の中で、作品自体はまずまずな本作であったが、この決闘シーンは白眉であった。
まさしく、タイトル通りの喧嘩太鼓!
やくざの風上にも置けねぇ。
悪しきやくざ共を斬り、迎えた新年。
「あなたが居なくなってしまっては…」
泣きすがるお袖を心残りに、市は初日の出を浴びながら、悲しくも旅を続ける。
これが市のケジメと償い。