「ブラインド・ティア」座頭市血煙り街道 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
ブラインド・ティア
シリーズ17作目。1967年の作品。
旅先である母子と相部屋になった市。母親は重い病で、今際の際に子供を前原に居る父親・庄吉の元に連れて行って欲しいと頼まれる。
ぶつくさ文句言いながらも何だかんだ子供好きの市。旅芸人一座らと一緒になって、旅を続ける。
道中、度々出くわす謎の侍。この男は何者…?
目的地に着き、庄吉を知る人物から話を聞くと、庄吉は絵描きの才能を土地のやくざに利用され、囚われの身になっているという。
子供の為に救出しようとする市の前に、あの侍がまた現れる…。
前作が重く暗くなり過ぎたせいか、本作は“THE座頭市”な娯楽作。
かと言って、話も決しておざなりになっていない。寧ろ、分かり易い。
一言で言えば、『~血笑旅』のような“子連れ市”。あちらでは赤ん坊だったが、こちらではかなりのわんぱく小僧。市も手を焼かさせるが、交流が感動させる。また、あちらの父親は会って落胆のクソ外道だったが、こちらは真面目な堅気人で救われる。
監督はお馴染み三隅研次。今作でも手腕が冴え、やはりこの名職人が手掛けた“座頭市”は格別!
尚、後に本作をベースにルトガー・ハウアー主演で『ブラインド・フューリー』が作られたのは有名な話。
クライマックスはシリーズ屈指とも言える立ち回りシーン。
悪徳やくざたちを斬り捨て、無事庄吉を救い出した市の前にあの侍が現れる。
名は多十郎で、正体は隠密。任務はやくざの悪事を全て“消す”事であった。つまり、関わった庄吉も…。
演じるは、勝新の大先輩で剣豪スター、松方弘樹の父親である近衛十四郎。
序盤から作品を締める存在感を発揮。
クライマックス、雪がしんしんと降る中、対峙。
片や堅気の人物の為に。
片や任務の為に。
それぞれの正義。
が、
慈悲を乞う市に無情に耳を貸さぬ多十郎。その姿は悪徳やくざよりも恐ろしい。
「侍なんて勝手なもんだ」と、市。
「許さんぞ」と、多十郎。
お互い、刃に手を掛け…。
市vs多十郎の立ち回りは、勝新と近衛が段取りナシに、二人だけの即興によるものだという。
まさに本物の、緊迫の真剣勝負!
必見!
決着も良かった。
いつものどちらかが斬られ、倒れるとは違う。
素手の相手の反撃に、負けた。
そして、ラストシーン。
自分を呼ぶ子供の声に、市は涙した。