「岸さんと、佐久間さんの絡み。岸さんたち姉妹と伊丹さんの絡み。」細雪 とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)
岸さんと、佐久間さんの絡み。岸さんたち姉妹と伊丹さんの絡み。
意外にコメディアン的な掛け合い。
本当は出世街道を走っているのに、蒔岡家の中に入ると、婿としての立つ瀬の無さ・卑屈をたっぷりと演じて下さった伊丹さん。
微笑ましくも笑ってしまうようなエピソードが満載。
長女鶴子と、次女幸子のあでやかでたおやかな口喧嘩を始めとする掛け合い。
それだけでも、いつまでも観ていたくなる。
鶴子が気にする親戚筋代表の叔母は三宅さん。小津監督の映画を思い出して笑ってしまう。嫁として右往左往していた方が、今回はご意見番。
他にも、ここにこの方!とそちらも釘付けになってしまう。
なじみのない、戦前のセレブの暮らしぶり。
お化粧はあんな風にするのか。
和風な部屋と洋風の部屋。吸入器も既にあり、風邪予防に使われていたのか。
炊事場の様子。階段。
絢爛豪華な訪問着や振袖。普段着使いの紬。嫁入り衣装だけでも、どれだけの財力があったのかと。
その他もろもろの意匠にも目を見張ってしまう。
姉妹の物語であり、石坂さんも出演されているので、時折『犬神家の一族』を彷彿とさせる。
家族構成や出演者だけでなく、映像のセンスが似ている。
『雪之丞変化』でも「光と影、究極の芸」と思ったけれど、この映画でも、美しさの見せ方にこだわっている。
鶴子・幸子が絢爛な帯を部屋いっぱいに広げて、あれやこれやというシーン。最初は、部屋だけ灯りで。周りは黒い額縁のよう。中に入っていくと帯と鶴子・幸子には光が当たり、キラキラしているが、その周りは、薄暗い。美しさ満点。なのに、話題はお腹が鳴る音で、姉妹が笑い転げている。
そんな、見惚れてしまうようなシーンがそこかしこに。
映画の筋は、ほぼ日常生活を映し出すもの。
まったりとしすぎていて、気を抜くと眠くなる。
それを唯一、かき回してくれるのが、四女(末っ子)妙子。
長い原作をまとめたから仕方がないのだが、この恋人とどうやって関係を深めていったのかが、少々唐突。とはいえ、恋人の選択は、よりましになっていく、その妙子の気持ちの変遷は見て取れるところがすごい。
そして、三女雪子のお見合い。果たして、良い相手は見つかるのかという点でも、一応話を引っ張っていってくれる。
だが、やはり、三女・四女の話は添え物で、主に次女がどう動くのか、それに長女がどう絡むのかが本筋なのであろう。
長女が移住を決めた時の婿と長女のやり取りが好き。
と、まったりしたこの話の中で、雪子演じる吉永さんが違和感。
電話にも出られない人見知りでおとなしいけれど、意思は一番頑固という役柄。しかも、電車の中で少年を、姉婿を誘惑しているような表情もあったりして。でも、余裕なく押し黙っていて、不気味な人に見える。表情も張り付いたように硬い。能面の品もなく、ぷるぷる震えて、視線はキョドキョドしている。なのに、姪の悦子に話しかける様子は矢継ぎ早で自分の気持ちを押し付けるばかり。看病の時は、必死さ・心配をしている様子を表したかったのだろうが、なめるように触っている。不審者?橋寺の娘にも、質問攻め。鶴子・幸子のおっとりさは出せなかったのか。
だから、「美しさを堪能しました」にならない。
勿体ない。
原作未読。他の映画化未鑑賞。