劇場公開日 1960年5月15日

酒と女と槍のレビュー・感想・評価

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5.0そして槍が残る。

2025年10月21日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

1960年。内田吐夢監督。主人公は秀吉の弟・秀次に仕える槍の名手で豪胆な男。秀次が謀反の疑いで切腹させられる時、親戚に迫られて殉死を迫られるが、大げさなパフォーマンスで公衆を集めて死ぬことで秀吉も親族もこコケにしようとする。ところが、それもすんでのところで止められると、田舎に引きこもって太平楽を決め込む。そこへ関ヶ原の戦いがおこり、前田家に仕える親友から仕官を誘われると、槍に導かれるように戦場に走り、、、という話。
とにかくすごい。自らの意志とは別に、時代や大名の意向や槍の名手という能力に翻弄されて生きるほかない男の切なさ。豪放磊落に笑う男の笑い声がむなしくひびく。主人公の行動が心理的に解明されるわけではなく、屈託や感動があるわけでもない。主人公の行動はあっけらかんとしており、むしろ心理的には謎だらけだ。とにかくどうしようもなく心が動き、体がうごく。そして最後に槍がのこる。もちろん恋もからんでいる。
切腹を覚悟した男は歌舞伎の女役者を呼んで酒を飲もうとするが、お目当ての若い女優は姉と慕う太夫とともにやってくる。男は若い女優に執着するが、保護者のように女優と男の関係を心配する太夫(淡島千景)は、実は当初から男に惹かれているようでもある。これが妙になまめかしい。結果的に男は田舎で若い女優と夫婦として暮らすが、戦が起ると子供をはらんだ妻をおいて戦場に向かってしまう。このいきさつでも太夫は事前に「女優を裏切ったら許さない」と男に迫り、事実、戦場で自らの命を賭して男の不義理を訴えているが、それは保護者的というよりも惚れた女が男に迫る意気なのだ。男が槍に振り回されていて自由意志で行動しているわけではないように、女は保護者的な役割に振り回されていて自由意志で行動しているわけではない。

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