「優美な音楽に、柔らかな陽の光に照らされながらゆっくりと散りゆく桜が、実に優しく幻想的で35年経っても決して色褪せない名作ですね。」櫻の園(1990) 矢萩久登さんの映画レビュー(感想・評価)
優美な音楽に、柔らかな陽の光に照らされながらゆっくりと散りゆく桜が、実に優しく幻想的で35年経っても決して色褪せない名作ですね。
新文芸坐さんにて『中原俊の愛いとおしき作品たち』と題した特集上映にて『櫻の園』『12人の優しい日本人』の2作品連続上映。
上映後『櫻の園』には中原俊監督・中島ひろ子氏・梶原阿貴氏・シネマ・ボンクラージュ代表 藤井秀男氏、『12人の優しい日本人』には中原俊監督・相島一之氏・豊川悦司氏・藤井氏の豪華で貴重なトークイベントも実施。
『櫻の園』(1990年/96分)
『BANANA FISH』『ラヴァーズ・キス』『海街diary』の吉田秋生氏の原作漫画を脚本のじんのひろあきし氏が大胆にアレンジ。
毎年春の創立記念日にチェーホフの「桜の園」を上演することが伝統の女子高(桜華学園)演劇部員22名の当日朝8時から幕が開くまでのわずか2時間にフォーカスした群像劇。
特に映劇部3年の部長・志水由布子(演:中島ひろ子氏)、彼女がほのかに思いを寄せる倉田知世子(演:白島靖代氏)、そして志水に思いを寄せる杉山紀子(演:つみきみほ氏)の3人の恋愛までは至らない同性への憧れと友情に揺れる少女の心の機微が繊細に丁寧に描かれています。
男装の麗人を演じる白島靖代氏、つみきみほ氏の凛とした姿は宝塚を彷彿さえるほど美しく魅力的。
桜が咲き誇る中庭で思いを伝えた志水が倉田と一緒に記念写真を撮影、一枚一枚シャッターを押すたびに笑顔がこぼれ徐々に二人の距離が縮まる様を、杉山が切なく優しく見届けるシーンは何度観ても涙を誘います。
公開当時まだBLや百合などのジャンルは確立されておらず、女子高だけを舞台にした映画自体もめずらしく意欲的な作品でしたね。
じんのひろあきし氏が登下校中の女子高生の会話を録音してまで書きあげた脚本、クランクインまで2カ月間リハーサルを行った22名の部員たちの会話や素振りはリアリティに富んで、一人ひとりの個性もはっきりと描き分けられています。
今回のトークで登壇した中島ひろ子氏・梶原阿貴氏もまるで実際の同級生だったような息の合った掛け合いでしたね。
音楽は太田胃散のCMで有名な「ショパンの主題による変奏曲」。
優美な音楽に、柔らかな陽の光に照らされながらゆっくりと散りゆく桜が、実に優しく幻想的で35年経っても決して色褪せない名作ですね。