「郷愁は誘う。けれど、原作の深みがない。 原作の方が百倍良い。」櫻の園(1990) とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)
郷愁は誘う。けれど、原作の深みがない。 原作の方が百倍良い。
吉田先生のファン。
吉田先生の描く女子高校生は、もっと肉感的。第二次性徴による変化・アンバランスな危うさを匂わせてくれる。
まだ経験値も低くて、何も考えていないような夢見る乙女を描かせても、どこか、”女”そしてやがて”おばさん”になる片鱗をちらつかせる。
経験値と感受性・思考度が高い女子なら、なおさら、性的な意味だけでなく”女”を匂わせ、それでいて天女の如く、鬼女の如くその存在感を放つ。
純粋で、それでいて泥臭く、神秘的で、”生”を感じさせてくれるような登場人物。
それなりに、悩み、逡巡し、それなりに放り出し、それなりに生きていく。
それに比べて、この映画の女子は皆、砂糖菓子。
何かを抱えていても、金平糖のよう。もしくは琥珀糖。
本音を言っているようでも、男子を前にしたぶりっ子。金魚鉢の金魚。アイドルが頑張っています的な。
そんな彼女たちを愛でたい人々からは珠玉の一本なのだろう。
けれど、私には物足りない。
★ ★ ★ ★ ★
杉山さん、切ない。志水さん、まっすぐすぎて…。
脚本賞をとったのも納得。
でもね。演技が…。賞総なめって、確かに着眼点とか、演出の方法は唸るんだけど。
主要4人はなんとかいい味出しているものの、他のメンバーは棒読み状態。
途中差し入れをしてくる先輩。もう少しどうにかならなかったのか。
たくさんの演劇部員の雑談場面がカメラ目線の会話。確かに日々たわいもない会話をしている。でもその会話に没頭している時の仕草や表情がカメラ目線なんだよなあ。女性の監督だったら、ああは撮らなかっただろうなあ。
そして、主要4人。
城丸さんは、本当は一番際どいはず。ばれたら杉山さんの比ではない騒ぎ。だけど、さりげなく傍観者の役をとってあっけらかんとしていて、え?という感じ。やばいと思っている半面、なんとかなると思っている世間知らずさ・要領の良さからくる万能感。周りがしていない経験している優越感と勇気があるみたいな勘違い。かえってスリルを楽しんでいるのだろうな。
と想像するのだが、演技からは感じない。彼とお付き合いして、演劇部のことやってと時間割をこなしているみたい。男子にしたら、相手してくれるしでもポカやって迷惑かけられなさそうだし、都合がいいのだろうな。
杉山さん役のつみきさん。煙草で指導受けている、その辺の演技がなおざり。何故、このような学校にいながら煙草を吸うメンバーと喫茶店にいたのかとか、吸っていないのに誤解されている憤りとか、確かに脚本にはないけど、ないからこそ、演技で表現してほしかったのだけど、表面的な台詞の解釈だけだった。
でも、志水さん達が写真を撮っている場面を観ている表情。あれはぐっときた。見応えありました。そして、届かない志水さんへのアプローチ。切ないですねぇ。
志水さんも同じ。演技は頑張っているんだけど、なんで急にパーマかけてきたのか、その辺が全く表現されていなかった。別にパーマかけていないおさげ髪だって、そのあとの展開変わらない。ま、杉山さんと指導室に呼び出される為にパーマが必要だったのだろうけど。
倉田さんが一番自然だったかな。いるいるああいう人、みたいな。
そこにいて表現しているだけで、志水さん他各メンバーが、どういう家族の元で、どう成長して、そういう期待をかけられていて、昨日家庭でどういう会話をしてきて、今この場にいるかが全然見えない。
映画中の台詞にはないし、場面もないけど、有名な役者はそこまで考えると聞く。最近、本当に実力のある若手が多かったから、その方々と比べちゃうのはかわいそうなのかもしれないけれど…。
大切な、(伝統行事で毎年やるけど)自分が演じるという点では生涯1度しかない上演が潰れそうなのに、なんかのんきだなあ。そんなに思い入れなく、中止となったらそれはそれでOKで、あくまで”部活”としてやっているからかしら。そういえば「しらけ世代」という言葉が出てきたのってこのころだっけ?劇の上演より、友達とのおしゃべりや告白の方が数段大切ってところは、まさしく高校生を見事に描写したなぁと思う。どうせ、もうすぐ受験でそれどころじゃなく、卒業して別れて行くのだからこの一瞬を大切にというほとんど祈りにも似た思い。
上田氏はさすが。学校にいる場面だけでなく、帰り道、家にいる様子とかも想像出来ちゃう。いいアクセントになっています。
吉田秋生先生の漫画を脚色した映画とな。
でも、吉田先生が描くものってそんな単純なものだっけ?
吉田先生の漫画なら、たったひとコマで、なんでパーマかけてきたのか、その前の志水さんの人生・家族背景を描きだしちゃう。
学校では優等生やっていそうな城丸さんの別の顔。女のしたたかさとこれがばれた時の顛末を想像できない甘さ。もしくは、顛末を想像できない目の前の快楽に興じるだけの幼さのみの女子。それでいて上級生の恋愛ごっこに気づきながらも知らんぷりするしたたかさ。そんな人柄が描き出される。
吉田先生は、けっして砂糖菓子のような綺麗事では済まない複雑な一人ひとりの内面をも描き出しつつ、その人たちの日常の一こまを紡ぎだしていくのがうまい作家さんだと思う。
美化した回顧録と重ね合わせてみるか、男性目線での映画。
確かに、美しい部分の少女たちの姿が綺麗にまとまっており、ちょっとしたほろ苦さと共に気持ちよく映画の世界に浸れる。
この映画が吉田先生原作のものでなければこういう切り口の映画ってあるねと、それはそれで評価できる。
でも、
吉田先生原作と聞くと、登場人物への人間考察が表面的すぎて納得できない。
なので☆3つです。
M様
コメントをありがとうございました。
まだレビューがないようなので、こちらにお返事します。
私は、レビューにも書いたように原作の方が好きなので、映画を見返すより、原作を読み返します。
蛇足ながら
同じ監督の同名の映画が、この1990年版以外に2008年版があります。
2008版はまだ見ていないのですが、予告を見る限り、脚色の仕方が違うようです。
2008年版は今映画で活躍されている方々がたくさん出演されています。でも、出演者の醸し出す品格は1990年版の方が上です。なぜなんでしょうか?
私も吉田秋生さんが大好きで、ひと頃ずいぶん読んでいました。
もちろん「桜の園」も読んだのですが、映画は見ていません。
レビューを読んで、見て見たいなあという気持ちが頭をもたげてきました。まし、見ることができたら、またコメントを書きに来ますね。