「少女たち櫻華の如く」櫻の園(1990) 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
少女たち櫻華の如く
私立櫻華女学園。
毎年春の創立記念日に、演劇部によるチェーホフの『櫻の園』を上演する事が伝統となっている。
その開演2時間前。集う演劇部員たち。
が、各々の問題や出来事で、上演が危ぶまれ…。
原作は『海街diary』でも知られる吉田秋生の同名コミック。
原作では四季の移ろいと共に少女たちの心情が描かれているそうだが、本作では開演2時間前に脚色。原作設定も見てみたかったが、短い時間軸の中で多感な少女たちの心情が濃縮されている。
それをナチュラルに演じたオーディションで選ばれた少女たち。余す所無く活写した中原俊監督の演出。
1990年度のキネマ旬報ベストテン第1位他、多くの映画賞を受賞。
劇中の美しい映像と春の陽光、少女たちの輝きの如く、青春映画の名編。
今では少女たちの何気ない姿を綴る作品は珍しくはないが、当時は新鮮だったとか。
劇的な事件は何も起こらない。
が、少女たちにとって動揺を隠せない問題や出来事は起こる。
突然パーマをかけてきた真面目な部長。
自分の役に自信が持てない部員。
前日、煙草を吸って補導された部員。
果たして、上演は…?
彼女たちにとっては“事件”だ。
演劇部員たちの面々。
特別可愛い娘やアイドルのような娘も居ない。
良くも悪くも、“普通”の女の子たち。
それが親近感を感じる。
と同時に、彼女たちがどんどん魅力的に見えてくる。
宝塚の男役のような凛々しい娘も居れば、パーマをかけた部長もエレガントに。
彼女たちの魅力と、映画のマジック。
展開は淡々と。
でも、少女たちのやり取り、他愛ないお喋りなどが不思議となかなか飽きさせない。
泣き笑いも過剰ではなく抑えて描き、それがじわじわ身に染みる。
そして、少女たちの繊細で瑞々しい心の動き。
友情、憧れ、仄かな恋慕…。
ほんの一瞬の彼女たちの“今”。
心地よく、ずっと見ていたいと思うほど。
満開の櫻の花。
彼女たちも、満開。
見ていたら、生身もいいが、クオリティーの高いアニメーションでも見てみたいと思った。
その時は是非とも、山田尚子監督で。
名社、京都アニメーションで!