劇場公開日 1999年12月11日

「ともあれハリウッド版ゴジラへの鬱憤は本作の公開で鎮まりました 製作の目的は果たしたといえます しかし大きな宿題が残されてしまったのです」ゴジラ 2000 ミレニアム あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0ともあれハリウッド版ゴジラへの鬱憤は本作の公開で鎮まりました 製作の目的は果たしたといえます しかし大きな宿題が残されてしまったのです

2022年7月17日
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鑑賞方法:VOD

1999年12月公開
ゴジラシリーズは1995年の「ゴジラvsデストロイア」で終わったはずでした
本当はハリウッドゴジラにバトンタッチされて、ハリウッド製作で新しいゴジラシリーズになっているという構想だったはずでした

本来は1993年の「ゴジラvsメカゴジラ」で平成ゴジラシリーズは一旦終了して、ハリウッド版ゴジラが1994年に公開される計画でした
ところがこれの制作が遅れに遅れ、1996年頃の完成見込みとの情報が伝わります

この間の穴埋めをどうするかということで、1994年は「ゴジラvsスペースゴジラ」が急遽撮られ、1995年には「ゴジラvsデストロイア」も製作されました
特に後者はラストでゴジラが死ぬ設定にしてあります
もうこれ以上遅れないと思っていたのでしょう
しかしハリウッド版ゴジラがさらに遅れると分かると、さあ困った!となり平成モスラシリーズをスタートさせることになります
1996年、1997年、1998年と平成モスラは3本公開されます

結局ハリウッド製作版ゴジラは、1998年の7月に日本公開されました
都合5年遅れです

怪獣映画としては史上空前の興行成績となり、普通の怪獣映画の10倍以上の巨額の製作費を回収して、その製作費の3倍程ものリターンをもたらしてくれました
散々遅延して迷惑した東宝もホクホクです
大成功と言えるでしょう

しかし、内容はどうだったか?というと話は別です

コアなゴジラファンほど酷評するのです
毛嫌いされて、こんな映画はゴジラではないと憤激されてしまったのです
それも日本国内だけでなく、海外のゴジラファンからも

これではハリウッド版ゴジラでシリーズ化という構想は引っ込めざるを得ません

そこで計画されたのが本作というわけです
幸いハリウッド版ゴジラは7月の公開であったので、その冬の怪獣映画は予定日通りモスラ3でそのまましのぎ、翌年の12月公開の怪獣映画はモスラは取りやめてゴジラの新作を日本製作で撮るという方針が固まります

ハリウッド版ゴジラで離反しそうなゴジラファンをつなぎとめる必要があったのです
だから、本当のゴジラとはこうだというものを作らなければならなかったのです

監督は平成ゴジラで評価の高かった大河原孝夫と決まります
特技監督はモスラ3で特技監督デビューをした鈴木健二をあてます

モスラ3での恐竜シーンの低レベルさは酷評を受けていましたが再起用されました
川北紘一さんが庇ってくれたのかも知れません

内容はまあまあ良かったと思います
日本のゴジラらしいオードソクックスな映画にまとまりました

物語の設定はデストロイヤの続きではないようです
平成ゴジラのどの作品ともつながりません
前半のゴジラを出現を追跡するお話はなかなかのサスペンス風味があり新鮮です
しかし、後半になると従来的な印象になってしまうのは少し残念

それでも本編と特撮がとてもうまくシームレスに繋がっています

主人公の子供を息子ではなく娘にしたところも良かったと思います

女性雑誌記者役の西田尚美は印象に残る良い演技を見せます
彼女、近年は「半沢直樹」の鉄の女役で話題になる良い仕事をしていました
超美人ではないものの美しさは20年以上経っても、いやむしろ逆に今の方が美しさを増しているように思えました
だから本作をひさびさに観た時にすぐ彼女だと気がついたのです

特撮では冒頭の根室への上陸シーンは特に見事な出来映えでです
凄い!これがゴジラだ!と長年のファンに歓声をあげさせるものです
大事なことは構図と照明の演出です
それがこの一連のシーンでは完璧でした
ことに夜霧による空気遠近法を強調する演出は大成功しています
そして火災による赤い背景光にシルエットとして浮かぶ黒々としたゴジラの姿
もちろん近影には根室の街を目の高さで実写とミニチュアを交えて合成してあります
電柱と電線や生活感のある風景を取り入れるのは平成ガメラの良い点を学んで取り入れています

本作はハリウッド版ゴジラだけでなく、平成ガメラシリーズへの回答が多分に含まれているように感じます

1999年3月にガメラ3が公開されています
正にこれから本作の撮影が始まろうというタイミングだったのです

自衛隊の扱いを含め、物語の空気感が似ています
特撮の絵づくりにも、平成ガメラシリーズを大いに参考にしているように感じました

日本海溝から浮上したUFO も平成ガメラの第1作を連想させますし、飛行するともう回転ジェットが欲しいほど寄せて来ます

ただ特撮の軍配はどうかというと
ミニチュアワークも特撮も本作の方が予算規模が大きい分凄い映像が多いはずなのに、残念なことに効果的で印象に残るものはガメラ3の方が多く印象も質も上です

とはいえ西新宿の超高層ビルの上にUFOが乗っかり、それを自衛隊が爆弾を仕掛けて破壊するシーンは見ものです
超高層ビルの高層階から大量の煙が舞い上がり、やがてビル全体が最上階から崩壊を始め周囲にはまるで火山の火砕流のような噴煙が押し寄せます
その絵面は、911そのままの予言になっているではありませんか!
911は2001年の9月11日ですから、本作は約2年後の事件の有り様を特撮映像で先取りしていたのです
それ程の映像を撮ったのです
そこは素直に評価したいと思います

ガッカリしたのは宇宙怪獣オルガの最初の形態が、大昔の火星人の想像画のタコそっくりであったことです
余りにもセンスがありません
冗談でしょと呆れてしまいました
樋口真嗣や庵野秀明がこのシーンの絵コンテを任されていたならどのように料理しただろうかと考え込まされてしまいます

ともあれハリウッド版ゴジラへの鬱憤は本作の公開でとりあえず鎮まりました
製作の目的は果たしたといえます

ではこれからのゴジラのシリーズ展開はどうするのか?

そのような大きな宿題は残されてしまったのです
何も解決していません
ゴジラのブランドを永続的なものにする
その課題はなにも解決していないのです

決定的な新しい価値の創造が必要なのです
ゴジラ映画に求められるものとはそれだったのです
でも一体それはなにか?
その時点では誰も分かっていなかったのです

あき240