午後の遺言状のレビュー・感想・評価
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今、見直してもなお、色あせない邦画の秀作!!
没後15年を経た今日でも、女優杉村春子の影響を受けていない現在の大女優はおそらく存在し得ないと思われる日本を代表する大女優であり、しかも91歳で他界する迄その生涯を現役のまま閉じる事が出来た、そんなキャリアを持つ俳優も彼女をおいて他にはいないと思う。その杉村春子をはじめとし、乙羽信子、観世栄夫、朝霧鏡子この4人を主要キャストとして繰り広げられる、人の老いをテーマに物語「午後の遺言状」は描かれるのだが、誰にでも確実に忍び寄って来る筈のその、人間の老いと死と言う重いテーマを描いているにも関わらず、時にユーモラスに、そして深く魅せ、感じさせる作品もこの作品をおいて他には無いのでは?と思うのだ。
それは、言うまでも無くこの4人の見事な芝居があっての事でもあるけれど、それよりも更に、この作品の監督が来月で満100歳を迎える新藤兼人監督の手による作品であるからこそ成せた技であり、生れた作品だと思うのだ。
認知症を患う者を家族に持つ人々の苦悩を描いている作品は数々あれど、生きている限りは必ず何時の日かは、誰のところにも巡り来る老いの問題を、只の悲しみや、苦しみとばかりには捉えずに、尚も命ある限り精一杯に生きる事の意味と、人間の生命に対する底力、命そのものが持つ尊厳と言うものを真正面から描き、老いそのものを笑い飛ばしてしまう程の迫力のある、生命の躍動のエネルギーがこの映画の中から伝わってくる。正にこれこそは新藤兼人監督ご自身のパワーそのもの、生命の輝きと言うものなのだろう。
そうして、人が人として誇りを持って人生を乗り越え、生きるその原点の力とは、人それぞれの価値観の数だけ違いがあって、皆それぞれが違う人生の歴史を背負って生きていても、その自分にとっての大切な世界を持ち続けている事と、そしてその人が生き、育んだそのエッセンスを誰かに、バトンタッチしていくこと、人の歴史は何かの形で受け継がれるように繋げていくことの意味と、人が子孫に残す事が出来る、その人なりの生きて来た役割の伝承を持っている事の重要性も伝えていてくれるのだろう。
杉村春子演じる大女優モリモトヨウコの別荘の庭師である、ロクベエさんが、ある日突然、大金を残したままで、「もう、これまで」と書き置き1枚残して83歳で自死する道を選択すると言うエピソードが描かれる、それこそは正にこれまでと人間が、その尊厳に腹を括る瞬間なのだろう。
そして、その最後の日を迎えた自分の棺の蓋を打つ為の石を用意していたと言うこの、庭師の話を聞いたモリモトヨウコが自分用の石を川原で探して用意して帰るのだが、その彼女に成り替わり、そのヨウコの恋敵?夫の不倫相手であり、長年の知人の乙羽信子演じる豊子がその石を元あった川原に投げ込んで終わるラストの何と清々しいことだろう!!!
ここに人が必ず迎える事になる最後の日、その日が来るまで我武者羅に生き抜くと言う監督の力強いメッセージが託されているように思う。
ガンを患いながら、この作品に出演し、映画の公開の日を迎える事なく他界した乙羽信子のこの映画での芝居も絶品だ。
この地味な作品は公開当時口コミで評判となりロングランした作品だ。
今見直しても、その素晴らしさは色あせる事が無い
今月20日から、鎌倉の川喜多映画記念博物館でこの「午後の遺言状」が上映される予定だ。
是非、まだご覧になっておられない方には、丁度桜の頃に当たるかも知れないので、お花見や、散策を兼ねて、この作品と出会ってみてはどうだろうか?
日本にも探せば沢山、ハリウッド映画には決して負けない素敵な作品も多数あるものだ。
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