「単純な活劇ではなく、科学に基づく世界観」GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊 Cape Godさんの映画レビュー(感想・評価)
単純な活劇ではなく、科学に基づく世界観
総合:95点
ストーリー: 100
キャスト: 85
演出: 95
ビジュアル: 90
音楽: 95
日本製映像作品としてはじめてアメリカのビルボードチャート1位を獲得し、「マトリックス」をはじめとして世界中に影響を与えた作品。非常に先進的な世界観を、ただの夢想だけではなく理論的に考察して作り上げている。単純な活劇映画ではない。
まず冒頭の音楽がいい。映像もいい。活劇もいい。監督の押井守は過去の作品の映画「うる星やつら」の原作を無視したはちゃむちゃぶりで少々幻滅していたのだが、ここではかなりかっこいい活劇や風景を詰め込んだ作品を作り上げた。
ただし感情表現豊かで人間らしい登場人物であふれていた原作と異なり、登場人物はにこりともせず感情を押し殺した人たちばかりになり、人というよりもロボットのよう。人の機械化といテーマを意識しすぎてやりすぎているように感じる。
それからなぜか日本に中国人街のスラムが登場するが、最初のほうでその上を飛ぶ旅客機の影が未来のものではなく現在の普通の旅客機(多分ボーイング747)そのまま。空を飛ぶ先進的な未来の技術と、その下にある昔ながらの貧困の生活を対照的に描いている場面である。しかし未来の話で設定をしているはずなのに旧式のままの旅客機が登場して、ここがすごく違和感があって目立ってしまって気になった。細かい点ですが、他の設定がいいだけに残念。
原作の士郎正宗はかなりのマニアックで難解な物語と設定ぶりで知られているが、本作はまだわかりやすいほう。しかしそれでも本作は比較的原作に忠実なため、やや難解に感じる人はいるだろう。殆どの人々がまだインターネットという言葉すら知らない1980年代に連載が始まったものでありながら、ネット社会の到来を予知してネット犯罪・ネットテロについて取り上げている。そればかりかネットが人々の生活や社会に与える影響についても考察され、哲学的・生物学的なことにまで踏み込んでいる。
物語は日々犯罪者に直面していく中で物語は複雑に絡み合い、ただの犯罪者の除去という段階をはるかに越えた物となる。主人公たちが追いかける天才テロリストの正体と、彼の行動と目的には驚かされる。最後の禅問答か哲学的思索のようなやり取りには、生物とは何か・我々はどう進化するのかといったことまで考えさせられる。子供にはこの物語は理解が出来ないであろう。
かつてフランスの小説家ジュール・ベルヌは100年も前に人工衛星・テレビ・ファックスの登場を予測したが、士郎正宗もまた漫画に科学を持ち込みネット社会を予測し、将来の人類について問題を投げかけた。