剣鬼のレビュー・感想・評価
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個人的には三部作の最高傑作
市川雷蔵主演、三隅研次監督の剣シリーズ(剣三部作)の第三弾。
柴田錬三郎の同名小説が原作。
犬の子と噂をたてられ蔑まれて育った斑平。
常人にはない感覚や能力を持つ彼は、偶然出逢った居合いの達人の修練を観察しただけで奥義を会得し、自らも手練れの剣士へと成長する。
やがて彼に目を付けた藩の上役から刺客として重宝されるが…。
差別を受ける青年がやがて凄腕となり、技を伝授してくれた師をも凌駕するというプロットはトニーノ・ヴァレリ監督の名作マカロニ・ウエスタン『怒りの荒野』(1968)と似ているが、本作が先。
ヴァレリはセルジオ・レオーネが『用心棒』(1960)を翻案した『荒野の用心棒』(1964)を監督した際の助監督。彼が本作に着想を得た可能性は十分考えられるだろう(一応、原作はほかにある)。
大映の看板スター、市川雷蔵がニヒルな眠狂四郎とは異なる演技で純朴な青年、斑平を好演。命ぜられるままに隠密や同僚を淡々と斬る斑平の罪悪感のなさが、かえって寒々しく痛ましい。
三隅監督は以降のシリーズ化も希望したそうだが本作の不入りで断念。ゆえに三部作。
興行成績が伸びなかった理由は作品の出来ではなく、原作に従ったゆえの異色性にあるのだろう。三島由紀夫原作の二作目とは一転、左翼的な作風に仕上がったことも災いしたか。
三部作すべて拝見して、本作がいちばん面白かったと思うのだが…。
監督の名伴侶、牧浦地志のカメラは相変わらず美しく、斑平の孤独をいっそう際立たせる。
咲が決闘の場に駆け付けた時には息絶えた武士の中に斑平の姿はなく、彼の名を呼ぶ咲の声が空しく野山に谺する。
斑平が生き残ったことを暗示するかのような終幕だが、多勢を相手に彼が討ち死にを果てたとする解説も。
原作ではどのような結末を迎えるのだろう。
BS12トゥエルビにて初視聴。
花と妖剣
大好きな映画で私の中では殿堂入りの作品。
市川雷蔵演じる犬と人間の間に生まれた斑平は、居合抜きの達人に剣を仕込まれ刺客に仕立てられていく一方、花を愛し渓谷を花畑にしていく。
斑平は、和製ヴァンパイヤだと思った。
最後の場面で、追手を次々倒し息も絶え絶えのはずの斑平の姿はどこにも見あたらない。
彼はきっと身勝手な人間に愛想を尽かし、人間の姿を捨てて花畑のどこかに隠れてしまったのだろう。
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