劇場公開日 1972年3月12日

「ジミヘン風君が代が妙に映画に合っている。」軍旗はためく下に kossyさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0ジミヘン風君が代が妙に映画に合っている。

2020年7月9日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

 「我が国の軍隊は 世々 天皇の統率し給う 所にぞある」(軍人勅語)

 戦争未亡人となった富樫サキエ(左幸子)は毎年8月15日に厚生省に赴き、夫勝男(丹波哲郎)が靖国に祀られないのはなぜか問い質す。決して遺族年金が欲しいからではなく、亡き夫の名誉のためだ。誰も証人がいないのに敵前逃亡、軍法会議で死刑という不名誉などあるはずがないと切々と訴え続けてきてるのだ。そこで新しい課長が事実を知るかもしれない、同じ部隊の4人の兵士を紹介する。サキエは一人ひとりを訪ね歩くのだが・・・

寺島:東京であっても東京ではない夢の島で暮らしている。富樫軍曹は勇敢な人で、命も助けてくれた。いいことしか言わない。最後は敵に突撃していった。

秋葉:戦争漫才をやっているコントラッキーセブンの関武志。軍曹はいも泥棒したため殺された。

越智:盲目のマッサージ師。人肉についてのエピソードを語る。あまり覚えていない。

大橋:高校古典教師。小隊長殺しのため5人が銃殺された。その時の軍曹ではないか?

 答えは藪の中か?戦後27年も経っていたため、誰が誰かもわからないし、戦死したと言っても餓死者が多いニューギニア戦線のこと。大橋の証言により、敵前逃亡ではなく、小隊長殺しの罪で殺された可能性が高くなってきた。しかも終戦後のことである。

 聞くだけでもおぞましい、敵前逃亡、友軍相殺、人肉嗜食、上官殺害・・・マラリヤや飢えと戦い続けた日本兵たち。やがて狂気と変貌し、戦ってる意味さえ無くした兵士。そんな空虚な戦争を国は始めてしまったのだ。人肉については頑なに口を閉ざす人が多かったらしいが、飢えに苦しむと人間は何としても生きようとするものだ。これが戦争なんだと胸が痛む。

 終盤になり、千田少佐に話を聞いて怒り心頭するものの、また寺島から話を聞く羽目になったサキエ。誰もが語りたくない真実と、「天皇陛下・・・」という言葉の続きを知りたくなった彼女はさらにショッキングな結末へと向かうが、もう一緒に祀られなくて正解!と、戦争を憎むのだった。実際の悲惨な写真、モノクロ映像から血が噴き出るカラーへと変わる瞬間も残虐性を物語っているし、サキエの心の表れか、終盤に流れるジミヘン風ファズギターの音色がたまらないほど空しく響く・・・

kossy