黒い雨のレビュー・感想・評価
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みんなみんな死んでしまった
原爆投下時に直接の被爆は免れたものの、その後の放射性物質を含む黒い雨に打たれた為に放射線障害を発病する若い女性を描いた、井伏鱒二さん原作の「黒い雨」を今村昌平さんが映像化した作品です。もう、今から35年も前の映画なんですね。
今村監督は勿論、北村和夫さんも、市原悦子さんも、小林昭二さんも、三木のり平さんも、大滝秀治さんも、皆さん戦争を生き抜いて来た人々であり、淡々と物語が進むスクリーンの奥から皆さんの静かな怒りと祈りが噴き出して来るのを感じます。そして、どなたも今や亡き人なのです。残された我々はその祈りをどの様に伝えて行けばよいのでしょう。そもそも、それは可能なのでしょうか。
そんな中、出演者中で数少ない戦後生まれが主演の田中好子さんなのですが、彼女も今や冥府の人である事が何とも痛々しいなぁ。
原爆による直接的な残虐性はもちろん、後の日本人同士の差別も、つらく...
原爆による直接的な残虐性はもちろん、後の日本人同士の差別も、つらく切ない。公開当時、白黒映画は珍しかったので印象に残っていたが、カラーでない方が効果的なのが改めてよくわかった。『日本昔ばなし』名コンビ、市原悦子と常田富士男が共演してたのか。日本アカデミー賞作品賞、今村昌平が監督賞、田中好子が主演女優賞、市原悦子が助演女優賞、武満徹が音楽賞、川本昇が撮影賞など総なめにした。
広島は終わらない 2021年のこの夏にこそ観るべき映画です
デジタルリマスター版で鑑賞しました
日本映画オールタイムベストにリストアップされるべき作品だと思います
しかしこれほどの傑作でありながら、レンタルも配信も無く、DVDを中古で探して入手しなくては鑑賞できませんでした
一体どうしたことなのでしょうか?
このような名作は広く、末永く鑑賞の機会が確保されなければなりません
日本でしか撮れない映画です
残されなければならない映画です
忘れ去られてはならない映画です
関係者の皆様、是非ともネット配信され広く鑑賞の機会を得られるように、ご尽力頂きたくお願い致します
それも日本だけでなく世界への配信であるべきだと思います
原作は井伏鱒二の同名小説です
今村昌平監督の映画だから、どうせ特定政治勢力の反核反戦運動の政治的プロガパンダが充満しているだろうという予断を持って鑑賞しました
しかしそれは杞憂でした
なぜなら原作者から「反核運動に利用されるような映画は認めない」と注文を受けての映画化だったからです
原作者の注文が強い重しになったようで、今村昌平監督のやりたい内容、撮りたい映画にしようする足掻きにも似た痕跡は、あちこちに散見されますが、殆ど気にならない程度の微かなものです
ただ、このデジタルリマスター版DVDには特典映像として、今村昌平監督が当初予定して撮影までしたカラー撮影での矢須子の四国お遍路の物語が19分収録されています
この物語は原作にはないものです
ここに今村昌平のやりたかった「黒い雨」があります
この四国巡りは昭和40年1965年の春からはじまります
なぜ1965年春なのか?
もちろん原作小説の発表が1965年だからです
その後の「黒い雨」と言うわけです
それだけでしょうか?
その前年1964年10月は前回の東京オリンピックがありました
その開催期間の真最中、中国は自国初の原爆実験を実施したのです
その死の灰は黄砂のように日本にまで流れて、強い放射性降下物を含んだ黒くはない「黒い雨」を日本に降らしたのです
もちろん世界中が非難しました
しかし今村昌平監督が心服する日本共産党はこれを肯定して擁護したのです
いわゆる「社会主義国の原爆はきれいな原爆」というものです
諸行無常
そのような衝撃を監督は受けたのでは無いでしょうか?
それが監督に、矢須子がお遍路に向かう四国巡りを撮らしめたのだと思います
結局、監督はこのカラー撮影の四国編を丸ごとカットして、ラストシーンを新たに公開版のように白黒で撮り直しを行っています
監督の判断を支持します
正しい決断をなされたと思います
公開版でこそ、永遠の生命を持つ、世界に普遍性を持つ、特定の政治勢力に利用されない本当の反核反戦映画になったと思います
そして同時にそれ以外の今村昌平個人のパッションという余計なものも排除したのです
そんなものは不純物です
原爆文学の最高峰といえる原作の映画化という価値を台無しにするものです
その上、せっかく自己を抑制して撮影を積み上げてきた本編を否定するものです
そんな監督の思想信条とかパッションとかいうものが、太刀打ち出来ない圧倒的なものが原作にあり、それを自分が映画化した原作に準拠したものもまた圧倒的な力を持っていることに気がついたのだと思います
よくぞ自ら気がついて、自己を否定し、相対化なされたと思います
監督は本作において、生意気ながら一皮むけたのだと思います
それゆえに、次の作品「うなぎ」が成功させられたのだと思いました
特典映像のメイキングには、カラーでの爆心地の悲惨な光景の撮影シーンがあります
あの兄に呼び掛ける全身重度の火傷でケロイドになり皮膚がボロ布のように垂れ下がった少年がカラーで映ります
声を失うものです
とてもカラーでは公開出来ないものです
正気ではいられないものです
それが本作が白黒である理由です
単に記録映画的な効果をねらったものではありません
田中好子、公開時33歳
キャンデーズのスーちゃんで引退したのは22歳
その頃は頬もふっくらとして、すこしポチャッとしていた印象でした
しかし、本作での彼女は頬もこけやせ細っています
戦時中の栄養状態不良、被爆後の健康不良を身体を持って表現しています
主要な登場人物は、全員昔の白黒映画の役者の顔をしています
昭和20年から25年の顔つきをしています
しかし彼女だけ現代の女性の顔つきです
明らかに彼女だけがそうなるように配役されています
監督の狙いは、本作のテーマを彼女の姿に語らせることにあると思います
それは「広島は終わらない」です
現代にまで、未来にまで続いているのだということです
それを田中好子は表現しているのです
配役も見事なら、彼女の演技も見事でした
本当の傑作、永遠の名作です
1週間程前、「黒い雨」訴訟の二審判決が広島高裁であったとのニュースに接しました
裁判内容についてはご自分でお調べ下さい
「広島は終わらない」のです
戦争は体の中で続いていたのです
2021年夏
例年に比べて異様に長かった梅雨が明けると、いきなり猛暑が訪れました
本作は昭和25年1950年の5月から晩秋にかけてのお話しです
淡々と進む広島県の田舎の日常を描きつつ、昭和20年8月6日のあの日と、終戦までの間のことが時折フラッシュバックして挿入されます
白黒だからこそ伝わる強烈な夏の日射しは21世紀でも変わりません
原爆から76年目の夏
本作の現在から71年過ぎた現代
カットされたカラーでの四国巡りは昭和40年1965年からは56年目の夏です
広島は終わらない
原爆記念日はもうすぐです
東京オリンピックがコロナ禍の中、開催されようとしています
1964年の前回大会から、57年経ちました
国際オリンピック協会のバッハ会長が数日前広島を訪れて、原爆記念公園で献花されるニュース映像を見ました
原爆資料館も見学されたようです
出て来た時、ショックを受けたようで少し休憩させて欲しいと言われたそうです
単なる社交的儀礼的な訪問だったのかも知れません
しかし原爆の現実はそんなものを突き抜けて、76年前に何があったのかを彼に突き付けたのです
原爆ドームは本作では映りません
カットされたカラーフィルムのラストシーンの中だけに映ります
原爆ドームは今も広島の真ん中に建っています
広島は終わらないのです
そして本作を観たあなたの心の中にも原爆ドームはあります
あの日から76年目の夏
広島は終わらないのです
2021年のこの夏にこそ観るべき映画です
蛇足
本作の英語題名は「ブラックレイン」
同名のリドリー・スコット監督の映画は、本作と同じ1989年10月の公開
本作は1989年5月、米国では9月の公開
ですから単なる偶然です
本作の黒い雨とは、原爆の放射性降下物即ち死の灰を大量に含む雨ですが、そちらの映画の黒い雨は、大阪などの空襲による大火災での煤を含んだ雨のことです
放射性降下物には触れられていません
しかし、もしかしたらあちらの黒い雨は原作小説のタイトルが少しは影響していたのかもしれません
放射性降下物、英語ではフォールアウト
ミッションインポッシブルの第6作のサブタイトルです
この作品では、悪の組織が原爆を、中国やインド、パキスタンなどの人々数億人の水源地であるヒマラヤ山脈の麓カシミールで爆発させ、放射性降下物を大量に降らせて水を汚染しようとするもの
つまりカシミールに「黒い雨」を降らせようというものでした
コールタールの雨を受けた
冒頭からいきなり8月6日の原爆投下。一瞬夜のように真っ暗になる演出は証言者の言葉を忠実に描いたものだろう。わけもわからず攻撃を食らった雰囲気が出ていて良かった。被爆直後は説明調の部分が鼻につくけど、すぐに昭和25年となり、原爆症やピカを受けたことへの差別問題が浮上する。
矢須子は叔父夫妻に育てられ、3度目の縁談も失敗に終わる。村人の様子、特に前線から帰還した悠一(石田圭祐)がエンジン音を聴くと枕爆弾とともにバスの下に潜り込む様子がいい。
縁談のために、黒い雨に打たれただけであって原爆症とは無縁という健康診断書まで作ってしまう。ストーリーでは入市被爆者であるから、やはりいつかは発病するのだろうけど、差別・偏見と闘っていかねばならない時代はなんとも胸が痛む。
女優二人が賞をとっていますが、石田圭祐や北村和夫、それにチョイ役の殿山泰司が最も印象的だったりする。不謹慎になるかもしれないけど、スーちゃんのヌードが綺麗。カラーでも見たいものです・・・
平和って素晴らしい。冒頭原爆投下直後の惨状、苦しさに胸が詰まる。た...
平和って素晴らしい。冒頭原爆投下直後の惨状、苦しさに胸が詰まる。ただ、広島原爆資料館で見た事実には到底及ばない。オバマ氏も言っていたが、世界中のあらゆる人に訪れて欲しい。その衝撃たるや。
話はたんたんと進みます。スポットライトがあたる演劇的演出はあるものの、正直少し退屈になりました。もはや途中からの興味は田中好子の…。ゲスですいません(笑)
この映画、別エンディングがあるようなので、ぜひ見てみたいです。
非常に重い
白黒で始まり スーちゃんが出てきて おや?
と思ったところから始まった …なるほど
ピカドンキノコ雲原爆投下 そして黒い雨…
白黒で作るしかなかったのかもしれない
被爆直後の凄惨な現場はリアルに作られ
そのご5年以上経ってからの二次被曝の苦しみ
最後まで気持ちを緩めることなく鑑賞
生涯忘れない「楢山節考」とともに
重く受け止めます
スーちゃん…図らずも演技で体験した苦しみ
重く受け止めます
原爆による惨状とその後
総合:80点 ( ストーリー:80点|キャスト:75点|演出:80点|ビジュアル:65点|音楽:65点 )
服が吹き飛び、焼きただれて溶けた皮膚が垂れ下がった怪物のような人が、いきなり弟ですと言って声をかけてくる。被爆直後の広島の町の悲惨な様子は衝撃的だし、それを隠すことなく見せてくる。
戦争が終わって何年もたつのに原爆の後遺症で次々に死んでいく身近な人々と、差別に苦しみ嫁のもらい手もなく傷つく女と、彼女の幸せを見届けることが出来ない叔父夫婦の姿は、観ていていたたまれなくなる。自分は大丈夫と信じていたのに周りの人が発症し、自分もいつか発症するのかと不安に苛まれていく。もしかするといわれなき差別と思っていたものは実は正当性があって、間違えていたのは自分のほうかと思わせるのは絶望的だ。そんな悲惨さと怖さがしっかりと伝わってきた良作だった。戦争で気が狂った元兵士や変な祈祷師も雰囲気を作っている。
ただし、白黒映像なのはどうだろうか。これで古さや陰鬱な雰囲気を出すことが出来ると考えたのだろうし、それはある程度成功している。それに天然色ではっきりと撮影してしまうと、きのこ雲や被爆者の姿が綺麗に出すぎてしまって特撮がばれてしまうのかもしれない。でもやはり観辛い。
広島原爆悲劇の一面を描いた名画
井伏鱒二の原作は挫折して途中までしか読んでませんでしたが、今村昌平監督の白黒映画作品は、田中好子を始め往年の芸達者陣を揃えた名作と思いました。
戦争の狂気とか核兵器の非人道性を考える上で、若い人を含め誰もが一度は観ておくべき映画だと評価したいです。一瞬にして、日常生活の中にあった赤子から老人に至るまで10万人近い人々が理由も知らずに命を奪われたことについて、考え続けてゆく義務を感じます。本映画は原爆投下直後の広島の地獄のような惨状も伝えようとしていますが、主題は放射能後遺症の恐怖とそれに絡んだ悲劇だと言えます。本編の主役のヒロインを演じた田中好子さんの実生活での短命が本映画と重なって、何とも言い難い気分に陥りました。
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