劇場公開日 1967年10月7日

「本作をもって日活ニューアクション路線は始まったのだと思います」紅の流れ星 あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0本作をもって日活ニューアクション路線は始まったのだと思います

2021年7月28日
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鑑賞方法:VOD

1967年公開
1958年の「赤い波止場」の舛田利雄監督自身によるセリフリメイク作品です

石原裕次郎と北原三枝のコンビが、今作では渡哲也と浅丘ルリ子になっています

この二人には前作にあった、俳優間の男女のケミストリーはまるで感じられません
あくまでも役の上のことだけだ、という空気しかありません

脇役のユカリ役の松尾嘉代、駒子役の奥村チヨ、刑事役の藤竜也の方が余程キャラが立って存在感があります

前作で企画の水の江滝子は参加していません
なので衣装には前作のような60年以上の時を超えて21世紀でも唸るようなセンスの高さは本作には有りません

当時のことを考えれば、それなりにおしゃれなのでしょうが、どこか北関東のヤンキーみたいなヤボったさが漂ってます

音楽の鏑木創は同じですが、モダンジャズぽい劇判は本作の雰囲気にマッチして素晴らしいと思います
口笛のフレーズは耳に残ります
知らないうちに夜道で吹いてしまいそうになります

前作は白黒作品でした
かといって階調が豊かな陰影を楽しむような撮影でもありませんでした

本作では、赤いセーター、赤い電話ボックスの屋根などカラー作品を意識して、赤を効果的に配置して効果を上げています

また、前作との9年の年月は、高度成長期の真っ只中だけあり、大きく神戸の街並みも前作からは様変わりしています
そこをしっかりとカメラで押さえています

ポートタワーも本作には建っています
京橋辺りも二階建てにはなっていないものの高速道路の高架が港の埠頭沿いに走っています
街並みも前作だと、どこかどこやらだった光景が、どうもこの辺りだと分かるようになっています
元町商店街もアーケードはもう現在のような姿になっています

元町商店街の路地を少し入ったところに、現在も本作と同じ場所で営業している洋食屋の伊藤グリルの看板があったのには驚愕しました
ここのビーフシチューは絶品です
神戸出身の升田監督も、淡路島出身の渡哲也もここのお店の美味しさは絶対知っているはず
わざと写り込むようにしたのかも?

但し南京町は、今では横浜中華街のミニ版になってどの裏筋も縦横に賑わっていますが、当時の裏筋は驚くほどの寂れた姿でした

こうした神戸の変貌をカラーで取りたい気持ちが、神戸出身の升田監督にはもちろんあったと思います
しかしそんなことではなく、撮らなけばならない大事な仕事だと監督が思った必然性があるように感じました

前作と本作の違いは何でしょうか?
なぜ監督はセルフリメイクをしようと思ったのでしょうか?

そこが本作のポイントだと思います

前作は1958年
まさに日活アクション映画の始まりの時期です
単純なムードアクションの映画の時代は10年程続いたのです

本作は1967年、日活ニューアクション路線の始まりの頃です
映画業界も斜陽化を迎えて、日活アクションも10年も続けば飽きもきます
従来の日活アクション映画とは毛色の違う映画が求められたのだと思います
それが日活ニューアクション路線と言うわけです

アクションはごく控えめ
というかメインにはなっていません

ムードアクションのような、ロマンスすら本作にはなく、単なる男女の肉体関係です

セリフもまた独特です
特に渡哲也のセリフは会話になっていません
無口な主人公ですが、ヒロインに対しては大量のセリフを話しますが、それは会話のようで、あまり会話にはなっていません
まるで独白のようなのです

しかも感情を込めた話し方をするなと演技指導されてんいるように思えます
これはすべて監督の演出意図なのだと思います

新しい日活ニューアクション路線を模索して実験している作品なのだと思います
日活アクションの初期の自作を、どう料理すれば時代に合った形の映画になるのか?
それを試してみた作品なのだと思います

そこに本作を観る価値と意味があると思います

渡哲也26歳
この時期は、吉永小百合との交際も順調だった頃
結婚しようという互いの意志を確かめあっていた絶頂期だったと思います
その高揚感がかれの演技の一挙手一投足、セリフの発声の隅々に感じられます

浅丘ルリ子27歳
渡哲也にはなんの関心もないのが、本作のストーリーに重なって妙な説得力がラストシーンにありました

宍戸錠は、本作のあと名作「拳銃は俺のパスポート」に主演します

つまり本作をもって日活ニューアクション路線は始まったのだと思います

あき240