グラマ島の誘惑のレビュー・感想・評価
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戦後日本社会の縮図
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太平洋戦争末期、皇族軍人らと、慰安婦、戦争未亡人、そして報道記者の女性らが、南洋の孤島に取り残された。戦後日本社会の縮図のような小さな共同体が形成され、様々な出来事を通じて変容していく。そして、帰国後の、戦後社会でのそれぞれの生き方を描く。
この作品を、男たちと女たちが、南の島で繰り広げるドタバタ喜劇としか受け止められないとすれば非常に残念だ。
島での生活を描いた前半部分は、生還者の一人が出版した本の内容であることが後半で明らかとなる。観客は、それまではいわば劇中劇を見ていたことに気付くことになる。そして、本の内容について、書かれた当事者たちがその真偽について文句を言っているのを聞いて、観客も夢から覚めたような気分で映画前半で見てきたことを懐疑するのだ。描かれていたいろいろな事件はすべて事実だったのか、人物の評価的な部分はどれほど妥当性のあるものなのかといったところにこだわり始める。しかしすぐにハッと気付くのである。どちらにせよ、フィクションなのではないかと。
現実の社会においても同様の「語られた過去」、つまり「歴史」についてこうした問題が付きまとうものだ。
戦後十数年にして、すでに歴史認識への懐疑がこの娯楽作品には織り込まれているどころか、戦後民主主義に対する疑問すらも見えてくる。
ラストの、原爆実験をやめさせようと行動を始めるフランキー堺たちの姿は、歴史の真実を経験した者こそが、このような愚挙に対して立ち上がらなければならないという、日本人へのメッセージではないだろうか。
さすがの川島雄三監督。初めてのカラー作品で、ただ浮かれた娯楽作品には終わらせていない。
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