「トイレの鍵返します」アパートの鍵貸します TRINITY:The Righthanded Devilさんの映画レビュー(感想・評価)
トイレの鍵返します
ジャック・レモン、シャーリー・マクレーン共演のコメディ。
大手生保に勤める独身サラリーマンのバド(レモン)。ラブホ代わりに使われると知りながら、点数稼ぎのため上司や会社幹部に日ごと夜ごと部屋を明け渡す。
そのせいでバドは大家や隣人から白い目で見られ、おまけに風をひいたり不眠症で睡眠薬を手放せなくなるなど散々な生活。
そんな彼もエレベーター嬢のフラン(マクレーン)に心惹かれるようになるが…。
今から65年前のアメリカ社会。
女性社員は男性上司の浮気の受け皿。上役の機嫌を損ねりゃ男も女も会社に身の置き所がない、セクハラもパワハラもやり放題の時代。
当然、ビリー・ワイルダー監督はそんな風潮を揶揄したうえで、良質なコメディに仕上げている。
でも、65年経った今、時代は本当に変わっただろうかと考えると、正直いって昔のことを笑えない。
自殺を図った愛人に「驚かされて不愉快だが、なかったことにしよう」と言い放つ65年前の男も、性被害に苦しむ同僚女性に「無邪気なLINEしてみましょうか」なんて考える65年後の男も、女性蔑視の意識は大して変わったように思えない。
「利用する人とされる人、後者はとことん損ばかり」とのフランの嘆きも、今の世にだって当てはまる。
自身もユダヤ系移民ゆえ、差別に苦しんだワイルダー監督はこうした不条理に敏感だったのだろう。そう考えると、中欧ぽい名前のフランの義兄が監督の分身に思えてくる。
時節柄、このテーマでは素直にコメディとして楽しめないが、コンパクトや睡眠薬、拳銃などの小道具を活かした伏線に名匠のセンスを感じる。
バドの部屋のレコードスタンドにあるのは、エラ・フィッツジェラルドの“THE FIRST LADY OF SONG”。
Amazon等で購入可能らしいが、アナログ・プレーヤーがない。
残念…。
NHK-BSにて初視聴。