銀嶺の果てのレビュー・感想・評価
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北アルプスの善人と悪人
何と言っても面子が堪らない!
監督・谷口千吉、脚本・黒澤明、製作・田中友幸、音楽・伊福部昭、出演は志村喬、三船敏郎…。
谷口の監督デビュー作、三船の映画デビュー作、伊福部も映画音楽初担当。
1947年の作品。
警察の追っ手を振り切り、北アルプスに逃げ込んだ3人組の銀行強盗。逃げ着いた山小屋で暮らす住人と交流を深めるが…。
アクションとスリルと見応えある人間ドラマを90分弱の尺の中に纏め上げた黒澤の脚本。
それを面白味充分に映像化した谷口千吉の演出も快調。(黒澤の良きライバルと期待されながら、その後精彩を欠いたのが惜しまれる)
実際に冬の北アルプスでロケを敢行したという映像は迫真。
スキーシーンに付けられた悲しい音楽は後の末路を暗示。谷口と対立しながらも、高く評価された伊福部の音楽への真摯な姿勢は有名な話。(伊福部好きとしては、後の名曲の片鱗を聞く事も出来る)
匠たちの技が冴える。
舞台である冬の北アルプスが主人公らの冷たい心情を反映。
そんな心に温もりを灯してくれたのが、山小屋で暮らす老人、娘、知人の登山家。
志村じるリーダー格の野尻は、ここでの数日の生活に冷えた心が溶かされていく…。クラシック音楽が身に染み入る…。前半のヒールっぷり、後半の人間味、志村喬がさすがの巧演。
対照的にエゴと欲とトゲトゲしさの塊の三船演じる江島。
雪山逃走中命を落とした仲間の死を悼まぬどころか、その金が惜しい。
娘と楽しんだスキーで見せた笑顔は偽りではない筈だが…、隙あらば仲間の金を横取りしようとさえしたり、生温い暮らしにヘドが出る。
デビュー作でギラギラ強烈個性の悪役。こりゃその後引く手あまたの売れっ子になる訳だ。当初はカメラマン希望だった三船だが、間違って役者になって本当に良かった!
登山家の本田を脅迫して、山越えをしようとするも、怪我をする。
やがて野尻と江島は仲間割れ。そのまま崖から落ちるが…、その時繋がれていたザイルに胸熱くさせられる。
助かった野尻は本田を背負って山小屋へ。警察が待ち構えていて、自首する。
別れ際の眼差し。
列車の中から、最後にひと目、山々を…。
あの銀嶺の果てで、感じ得たものは…。
娯楽性を追求した娯楽作。そして、高らかなヒューマニズム。
古臭さを感じさせない面白さ。
偉大な映画人たちのキャリアの脂が乗り切り、またキャリアの出発点としても、一見の価値あり。
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