「令和の時代に見ても色褪せていないカメラワーク。」獄門島(1977) すっかんさんの映画レビュー(感想・評価)
令和の時代に見ても色褪せていないカメラワーク。
◯作品全体
親族間の戦後のお家相続問題、権力者の裏の顔。正直『犬神家の一族』と同じ物語の筋にしか見えないし、種明かしが進んでいくたびに、また複雑な親族関係が火種だったんだな…みたいな気持ちになった。ただ、飽きずに見られたのは『犬神家の一族』と同じく世界の切り取り方の巧さがあったからだ。
まず、なにより引きの画面のかっこよさ。寺へと続く階段や座敷内を撮るときも役者の顔が見えなくなるくらい引きの画面で撮っていたのが印象的。座敷内の映像なんて、柱やふすまがあるから窮屈になりがちだけど、それすら無視して引きの画で世界を映すとともに「余白の恐怖」も伝えてくる。ガランとした空間や、誰も居ないはずの階段脇の雑木林になにかの意味を探りたくなる。俳優を映したい邦画によくあるバストショットの会話劇や露骨な表情芝居を映すためだけにあるアップショットなんかはほとんど存在しなかった。だから50年近く経ってもなお、野暮ったさを感じさせないミステリー映画として見られるのだと思う。
今作で言えば、島全体を使ったトリックも良かった。本鬼頭と分鬼頭、そしてお寺の間にある道にトリックを据えることで、事件を生み出した島に潜む歪さに近づいていく。
ただ、気になった点は勝野と了然の関係性。困っていた勝野の世話をしてくれたから、というのはわかるけれど、もう少し作品内にエピソードを入れていても良かったんじゃないかなと思った。了然が雪枝の殺害現場を見ておきながら、他の誰にも情報を漏らさずに処理をしている関係性はすごく面白かった。結託しているわけでも打ち合わせをしているわけでもないけれど、目的地をふたりとも把握している、というような共犯関係。
本家・分家の関係性とか土地と人間関係の濃さを活かしたトリックとその説得力。個人的には『犬神家の一族』と同じくらい好きな作品だ。
◯カメラワークとか
・モノクロ演出は今回も健在。時間を区切るため、というよりはその画面のインパクトのために使っているような気がした。
・引きの画の怖さは『犬神家の一族』よりも感じた。鐘の隣に立つ了然を小舟から見上げるカットとか、復員兵のやられ際とか。
◯その他
・大原麗子も美人だったけど、坂口良子がかわいすぎる…!アヒル口っぽい口元とか涙袋とか、昭和よりも今の時代にハマりそうなルックスだと思う。