「むざんやな 犯人変えた 獄門島」獄門島(1977) 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
むざんやな 犯人変えた 獄門島
先日NHKーBSプレミアムにて「獄門島」がSPドラマとして放送。金田一役は長谷川博己。
久々の金田一の映像化は大変嬉しく原作にも概ね忠実で悪くなかったが、ラスト犯人に事件の真相を暴く際に発狂する金田一に如何なものかと言うより、ドン引き…。
奇しくもちょうど、市川&石坂コンビのシリーズを見返していた時だったので、尚更…。
監督・市川崑×主演・石坂浩二による「犬神家の一族」「悪魔の手毬唄」に続く金田一耕助シリーズ第3弾。
原作はシリーズ屈指の名作であり、日本ミステリー小説の最高峰。
俺が帰らなければ妹たちが殺される…。
亡き戦友に頼まれ、彼の故郷の島・獄門島に赴いた金田一。
やがてその遺言通り、3人の妹が特異な姿で殺されていく…。
(本作では金田一が戦友・千万太に直接ではなく、彼の友人に頼まれ…に変更)
タイトルバックにキノコ雲や戦後の焼け野原の映像を挿入。
話にも復員兵が絡み、引きずる戦争の陰は本作の重要な要素。
また、夜の暗闇が大きなトリックの一つ。
映像派の名匠・市川崑監督の腕の見せ所であり、おどろおどろしくも美しい雰囲気、インパクトあるショック描写、素早いカット…シリーズに一貫するスタイルは健在。
しかしながら本作はどうしても「犬神」「手毬唄」と比べると見劣り。
否めない要因が、犯人を変えてしまった事。
ネタバレチェックを付けるので、まず本来の犯人と動機をぶっちゃけるが…
犯人は、島の有力者3人、了然和尚、村長の荒木、医者の幸庵。
獄門島の網元・鬼頭家。その本家の跡取り・千万太が死んだ場合、分家の一(ひとし)に継がせる為、本家の3姉妹を殺せ。
息子をたぶらかした憎きよそ者女が生んだ3姉妹に本家を継がせてなるものか。
全ては亡き当主・鬼頭嘉右衛門の憎悪を3有力者が引き継ぎ、さらに殺人の必須条件が不運か偶然か整り、決行したものだった。
一応映画も、3姉妹が殺される。俳句の見立て通り。
しかし、3姉妹の一人を殺したのは和尚なのはそのままとして、後の二人は本作オリジナルの犯人に変えられた。
本家の女中がその人物。
オリジナルエピソードは悲しみを表すのに充分だが、残念な事に動機がどうも納得いかず、元々の犯行の動機とも巧く交わらず、ある人物との関係も陳腐で浮いてしまった。
そこはやはり、周囲から隔離された孤島に残る封建的な因習のままにして欲しかった。
ミステリー好きの監督が趣向を凝らした結果、策に溺れてしまった。
キャストで特筆すべきは、大原麗子。
演じた早苗は金田一が数々の事件のヒロインの中でも唯一仄かな感情を抱き、それも頷ける色っぽさ。
大原麗子を見るといつも思うけど、今なかなか彼女のような綺麗な女優、居ないね…。
尚、「獄門島」の映像化は同時期の古谷一行主演のTVドラマ版「横溝正史シリーズ」のものが傑作であった。