「幻なりき」より 郷愁
劇場公開日:1952年7月2日
解説
「とんかつ大将」の山口松三郎が製作に当たり、雑誌『主婦と生活』に連載された吉屋信子の原作『幻なりき』から橋田寿賀子が脚色し、「若人の誓い」の岩間鶴夫が監督に当たっている。撮影は「相惚れトコトン同志」の西川亨。出演者の主なものは、「修羅城秘聞 双龍の巻」の轟夕起子、「銀座巴里」の岸恵子、「女のいのち」の佐野周二、「朝の波紋」の高田稔、「波」の笠智衆の他、設楽幸嗣、大坂志郎、森川まさみなどである。
1952年製作/103分/日本
配給:松竹
劇場公開日:1952年7月2日
ストーリー
仏印の大華僑楊氏の美しい未亡人芳蘭は、元は岸本比奈という日本女性であった。仏印からはるばる日本へ帰ってきたことで、人々は色々と噂し合った。比奈はその昔笹川弘の妻で、苛酷な姑を刺したことから入獄し、離縁になったのだった。獄中で娘の雪子を産み、産衣のまま踊りの師匠栗林達雄にもらってもらった。比奈はその娘恋しさに帰ってきたのだった。比奈の事件以来家運が傾き貧しい暮らしをする兄の順吉は、かたくなに比奈に会おうとしなかった。ようやく栗林家のありかを突き止め、達雄に会って雪子を返してくれと頼むが、手塩にかけた雪子をいまさら手放すことはできないと拒絶された。昔密かに比奈を想っていた達雄にとっては、雪子の中にその面影を求めようという気持ちもあった。比奈は激しく失望するが、雪子が達雄とその妻さだの愛情の中でどんなに幸福に育っているかを見ると、自分がもはや余分な存在でしかないことを悟って、一人淋しく箱根に逃れた。しかし達雄夫婦は雪子を比奈に返すべきだと考えるようになり、達雄が雪子を箱根に連れていく。そこでの楽しい対面に、比奈は自分が母であることを明かさずに一人で先に帰京した。達雄と雪子が帰宅してみると、さだは、達雄と雪子と比奈と三人で幸福になってくれ、と書いて実家へ帰っていた。雪子は比奈を訪ね、生みの母というだけで自分たち一家の幸福を乱さないでくれ、と言う。比奈は希望を持って訪ねた日本の土地から、再び帰らない覚悟で一人仏印に旅立つのだった。やはり雪子に会うことを希望に二十年独身を続けてきた笹川弘も、美しく舞う雪子の舞台姿とその育ての両親の愛情に満ちた姿を比奈に見せられて、諦めるのであった。比奈を乗せた飛行機が飛び立とうとした時、見送りのために飛行場へ駆けつけた雪子は、お母さんと叫んで手を振るのだった。