「東宝が『マタンゴ』なら、松竹は『ゴケミドロ』だ!」吸血鬼ゴケミドロ 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
東宝が『マタンゴ』なら、松竹は『ゴケミドロ』だ!
特撮と言ったら、東宝。
次は、『ガメラ』や『大魔神』を生み出した大映。
その次は…?
松竹かもしれない。
松竹と言ったら、ホームドラマや人情劇がお家芸。しかし、特撮作品も少々。
珍品怪獣映画があったが、本作は間違いなく松竹特撮の最高峰。…いや、邦画SF怪奇作屈指の名作と言ってもいい。1968年の作品。
勿論前々からこの作品の事は存じ上げ、是非とも見たいと思っていたのだが、なかなか機会が…。
そんな時巡り逢わせてくれるのが、動画配信。もう、センキュー!
特撮マニアとしては本当に宝庫。
航行中の旅客機が逃走中の要人暗殺犯によってハイジャック。
その直後、謎の発光体と遭遇。航行不能となり、岩山に不時着、大破した。
助かったのは僅か10人。暗殺犯も助かり、やがて目を覚まし…。
まず、このサスペンス・ドラマ部分だけでも充分見応えあり。
正気を保とうとする者、
醜い争いをする者、
冷徹に見つめる者、
問題の危険人物…。
助けも来ない、望みもない、水や食糧も底を尽いた時…。
極限状態下に置かれた人間模様。
正直、エゴにまみれた人間の悪しき姿は見たくない。本来、人間はこうじゃないと信じている。
しかし…
“作品”としてはスリリングに引き込まれてしまう。
人間には少なからず、そういう性があるのか…?
これだけでも話は成り立つが、お膳立てに過ぎない。
メインディッシュはここから。
知らぬ間に、我々はすでに…!
暗殺犯がスチュワーデスを人質に逃走。
すると岩影で、あの発光体と遭遇する。
それは空飛ぶ円盤。
暗殺犯はその中へ。アメーバ状の生物が暗殺犯の額を割って体内に入っていく…!
さながら『寄生獣』の原点。額を割って体内に侵入していくシーンは強烈インパクト。
謎のアメーバ状の生物も『ブロブ』みたい。
しかし、恐るべき生物。
侵入された者は精神も肉体も支配され、吸血生物に変貌。
宇宙吸血生物、ゴケミドロ!
ゴケミドロに支配され吸血鬼と化した暗殺犯は次々生存者たちを襲う。
元はアメーバ状なので知能など皆無かと思いきや、人を介して意志疎通。兼ねてから地球を狙っていたと戦慄の征服計画…。
生き残った者たちで決死の闘いに挑むが…。
強烈ビジュアル&インパクトのオンパレード。
序盤の旅客機の窓にぶつかって死ぬ鳥で不穏を煽る。
脳裏に刻まれる色彩。何と言っても、真っ赤な空! これはタランティーノが『キル・ビル』でオマージュを捧げたほど。
光り輝く円盤。円盤内での恐るべき体験は画面が揺らぎ…。
血を吸われた人はミイラ化!
間違っても子供が見る作品ではない。
監督の佐藤肇と脚本の高久進&小林久三は、本当にいい仕事をした。
東宝の非怪獣/非SFの特撮に劣らない。
キャストでは副操縦士の吉田輝雄とスチュワーデスの佐藤友美(美人で妙に色っぽい)がヒーロー&ヒロインだが、やはり吸血鬼と化した高英男。
本業は俳優ではなくシャンソン歌手らしいが、そうとは思えない超怪演!
あの額の傷、あの風貌、あの不気味さで迫り襲われたら…、悪夢に出てきそう!
当時のSF作品は洋邦もある程度のメッセージ性はあるにせよ、危機は回避され、地球は救われる。つまり、ハッピーエンド。
が、本作は違う。
唯一生き残った副操縦士とスチュワーデス。命からがら、やっと人気のある場へ。
そこで目の当たりにしたのは…!
絶望と悲壮の救いの無いラスト。
さらに追い討ちをかけるように、宇宙から…。
東宝が『マタンゴ』なら、松竹は『ゴケミドロ』だ!
ゾッとするが、衝撃的なまでに面白い!
我々の知らぬ間に…。
何だか今のアレを彷彿させ、殊更恐ろしくも感じた。