「俺に憤怒の河を渉れって?」君よ憤怒の河を渉れ よしたださんの映画レビュー(感想・評価)
俺に憤怒の河を渉れって?
松竹映画なのに製作 永田雅一。確かに大映臭プンプン、だけどさっきまで東映にいた高倉健主演。この時点でなんだか良く分からない感じなのだが、「太陽に吠えろ!」か?と思わせる粗削りなカメラの動き、深刻な状況を全く無視した呑気なBGMと続くと、健さんではなく、観客の心にふつふつと怒りが満ちてくる。
逃亡犯なのに東京・奥能登・日高を楽々と移動して、検事らしからぬサバイバルスキルを発揮。そりゃ、追いかける刑事の原田芳雄が感心して言わなくても「検事にしておくには惜しい男」だよ。自衛隊の特殊部隊で活躍してもらったほうがいいに決まっている。そのことは後年ちゃんと「証明」されている。
そんなもんだから、ぬいぐるみとすぐに分かる熊が出てきても、もう観客はそんなことでは怒らないし、中野良子と健さんのラブシーンがいつ始まるのかくらいしか興味がわいてこない。
そんな観客の怒りの増大とは反比例するかのように、当初健さんへの敵意むき出しだった原田芳雄が、徐々に健さんへの信頼と尊敬を示すようなる。 健さんを泥棒扱いした田中邦衛の写真を片手に、「とぼけた顔しやがって」と吐き捨てるあたりから、原田がグングン乗ってくるから、中野と結局はやっちゃった健さんに代わって物語を動かしていく。
新宿駅前に馬を走らせるアイデアは良かったが、いい加減だれ切ったこの映画のもはやこの時点でそれを見せられても、そこまでやる意味あるの?と思う観客が多いだろう。どうせなら冒頭にガツンとかまして、フラッシュフォワードにしたほうが俄然興味が湧いただろう。
つまらない映画にくどくどこれだけ書くことがあるのは、半端じゃなくつまらないということ。これだけ欠かせればもう立派なもので、最後に西村晃が射殺されると、観客の多くはチケットの半券を握りしめて憤怒の河を渉っていったことだろう。