「今観ると斬新!日本初の動物映画に映るそこはかとない悲しみに、制作者の隠れたメッセージを読み取る」キタキツネ物語 THE FOX IN THE QUEST OF THE NORTHERN SUN コタツみかんさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5今観ると斬新!日本初の動物映画に映るそこはかとない悲しみに、制作者の隠れたメッセージを読み取る

2024年9月19日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

悲しい

楽しい

知的

日本で最初の動物映画ということで、自分の年代だと子ども時代に『キタキツネ物語』で初めて映画館を訪れたという人が多く、自分もその一人。今では考えられないが、満員電車のごとく立ち見のギュウギュウ詰めで、座席ではなく階段に座って観たのを覚えている。

内容は、今観るとかなり斬新。
ゴダイゴのミュージックビデオか!ってほどに場面場面で彼らの音楽が流れまくるのだけど、これが案外イケてる。丘の上の大木がキタキツネ一家を最後まで見届けるナレーションも、大自然で生きる彼らの物悲しさをかき立ててくれる。

なにより後半は一転して、キタキツネ一家が次々に非業の死を遂げていくのだが、それをつぶさに描き出す、当時の遠慮のない表現のすごさよ。しかも、触れ込みでは「大自然に生きる厳しさ」とか言っておきながら、いやいやどうして「ほとんど人間が殺してんじゃん!」と当時は親に泣きつきながら映画館を後にしたものです。

今思えば、日本初の動物映画を企画した制作者には、明確にその意図があったのかもしれない。興行収入ではなく、北の大地で人知れず行われている人間の所業をどうにかしたいという切なる思いが。かわいいキタキツネのイキイキとした生き様を前面に打ち出しながら、それを殺しているのは実は私たちですよというメッセージを映画の中にこっそり忍ばせたのではあるまいか。

それがためか、本作は今観てもその後の動物映画とは明らかに異なる、そこはかとない悲しみが画面いっぱいに漂っている。
制作者の意図を含め、いろいろ興味深い映画である。

コタツみかん