「色と芸術をもたらしたミューズ」カルメン故郷に帰る ありきたりな女さんの映画レビュー(感想・評価)
色と芸術をもたらしたミューズ
大学で映画専攻だったため、映画史の授業で「日本初のカラー映画作品」というのは当たり前に習い、覚えていたのでなんとなく観てみた。
浅間山の麓の山々の緑と突き抜ける空の青さに、白い肌が歌い踊って生命力に満ち満ちていて、本当に美しかった。70年経った今でも(言い方は悪いけど)「映え」だなと。(ただ感度がまだまだだったカラー映画の撮影の裏話を調べたら、とんでもなく大変だったようでびっくりした。先人の皆様の努力を思う。)
あと衣装が、これも今観ても結構露出多いなとは思いつつ、すごくお洒落。格好いいし可愛いし、全然古さを感じない。
音楽も格好いい。歌唱場面も良いけど、牧場で踊ってる時にバックでかかっていた"アヴェ•マリア"が途中でイカしたアレンジで流れ始めて、この時代って思ったより豊かだったんだな、この映画結構攻めてるなと驚く。
個人的に面白かったのが、カラー云々とかそういうことより「芸術とは何たるか」みたいなことを村の人たちが普通に、それこそ世間話の延長みたいな感覚で話題に出してくること。
校長先生やお父さんみたいに、カルメンもといおきんさんのことを大事に思うから心配したり恥ずかしかったりするし、「芸術」とは名ばかりに消費されやしまいか懸念するきちんとした大人が居ること。まずそれはとても大きいこと。
「芸術は文化だ」とか「この小学校から芸術家が輩出できるようにお金を大事に使う」とかそういう話が出てくるのがすごい。現代のこの国で全然出来てないことを憂いたくなる。
それから春雄さん。彼はカルメン同様この村出身の芸術家のひとりとして出てくる。目が見えないからこそ彼女の踊りや格好を見ることがないし、諸々含め本質を見抜けるという設定も面白いけれど、カルメンと春雄は丸十という「芸術」を盾に金儲けに群がるよくある人間の一人に、オルガンを売られ、舞台で儲けさせられ、という流れがちゃんと描かれてるのもまた芸術にまつわる諸相として大事なことだ。
でも当の本人のカルメンと朱実ちゃんが全くそういうの気にしてないというか、ストリップだろうが自分たちのやってることは「芸術」と思ってるし、途中「芸術には非難や苦悩が付き物だから、革命を起こすくらいの気概を持たなきゃダメ」みたいなことを言って軽く足をポーンと上げていた。とにかくもうそれがめちゃくちゃ格好良かった。天晴です。
白い肌を輝かせながら、スリットの入ったスカートをたなびかせて颯爽と前に進んでいく。いつの時代もこういう女性が新しい何かを切り拓いていったのだろうな、と想像した。